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社畜、社内ニート必読!? 働くことの意味を考える写真集『地球のハローワーク』

waharo.jpg『地球のハローワーク』
(日経ナショナル ジオグラフィック社)

 旅に出ると、「へー、こんな職業があるのか」とか、「あの人何やってるんだろう、暇そうだな」とか、「全然、商品売れてないけど、ちゃんと食べていけるのかな」とか、その土地の仕事について、よく考えさせられる。

 インドでは、自分の体に20個ほどカバンを巻きつけ、「カバンいらない?」と、会う人会う人に聞いて回る人がいたり、フランスのエッフェル塔の前では、黒人のお兄ちゃんたちが無表情でひたすら鳩のオモチャを飛ばしていたり、中国の列車の中では、突然、タイガーバームのよさを熱弁し始め、誰か目を合わそうものなら迫ってきて売りつけようとする商売人がいたり……。

 また、中には考えられないほど過酷な職業についている人もいる。世界一標高が高い町とされるボリビアのポトシは、少し道を歩くだけでも苦しいのに、さらに空気の薄い鉱山の中で、高山病に効くとされるコカの葉を噛みながら必死に働く人々もいた。

 人は生きるために、働く。必ず何かをしながら、生きている。
 
 その姿を世界各地でとらえた写真集が、『地球のハローワーク』(日経ナショナル ジオグラフィック社)だ。著者は、フェルディナンド・プロッツマン。ニューヨークのアート誌「ARTnews」の編集者で、ワシントン・ポスト紙ほか、各紙に評論・エッセイを執筆する作家であり、批評家だ。精神科医のフロイトや、哲学者マルクスの仕事論を巧みに使い、人間にとって仕事とはなんなのか、というちょっとばかり小難しい話を追求しつつ、掲載されている写真の解説に力を注いでいる。

 この本は、もともと「ナショナルジオグラフィック協会」という、アメリカのワシントンに本部を置く、地球の姿を人々に紹介する非営利の科学・教育団体が刊行した『ナショナル ジオグラフィック写真集 地球に生きる 仕事と人生』を再編集し、改題したもの。

 この団体は1888年に設立され、その長い歴史の中で収められた写真から厳選した180点が掲載されている。

 本書の中には、100年前の北米の紡績工場で働く少女がいるかと思えば、現代のパキスタンの薄暗い工場で、銃を組み立ている少年がいる。ほかにも、イギリス・バッキンガム宮殿の衛兵、イエメン・ホデイダで砂漠の緑化のために水やりをする白い伝統衣装を身にまとった男性、南アフリカでサトウキビ畑を野焼きするズールー族……。楽しげに、あるいは苦しげに、時に躍動的に働く彼らの姿が映し出されている。

 この100年ほどの間に、世界は大きく動いた。必要がなくなり消えてしまった仕事もあれば、新しく生み出された仕事もある。けれど、ただひとつ言えることは、いつの時代も人々は働いているということ。どの人にも養うべき家族がいて、どうにかこうにか、生きている。

 日本では、職がない、職がない、と嘆く人であふれ返っているが、世界にはさまざまな仕事がある。ページを開く度、懸命に働く人々の姿が目に飛び込み、「生きる」ということを、訴えかけてくる一冊だ。
(文=上浦未来)

●フェルディナンド・プロッツマン
米国の作家、批評家。ニューヨークのアート誌「ARTnews」の編集者で、ワシントン・ポスト紙ほか各紙にも評論、エッセイを執筆している。オハイオ州オバーリンに家族と在住。

最終更新:2012/05/13 12:00
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