わずか3万円で単行本を丸ごと英訳! インドで行う漫画翻訳は成功するか?
#マンガ
日本で発行される漫画を海外で翻訳出版する動きは盛んだ。海外の書店では、その国の言語に翻訳された日本の漫画単行本を目にすることも珍しくない。そんな中、今度はインド企業と共同で漫画を各国語に翻訳し、DTP作業まで一貫して請け負うサービスを提供する企業が登場した。
東京都にあるネットサポート株式会社が始めたこのサービス。何よりも目を引くのは、価格の安さである。200ページ程度の一般的な漫画単行本だと、1冊丸ごと翻訳した後、翻訳したテキストをフキダシへ入力、PDFや画像ファイル、電子書籍対応フォーマットへの変換までの作業を含めて、およそ3万円で受注するという。
もともとIT系の各種事業を行う同社では、英語マニュアルの日本語への翻訳事業も行っていた。そこで得られたスキルを利用して、昨年7月から電子書籍の翻訳サービスの提供を開始。その後、ユーザーから漫画の翻訳もできないかという要望があったことから、新たな事業として展開することになったという。IT系企業ということもあり、IT先進国であるインドの企業とはこれまでも関係が深く、スムーズに翻訳の作業システムを構築することができたという。
現在、インド側には翻訳者が26名。英語のほか、中国語、ドイツ語、スペイン語に対応しており、さらに今後はほかの言語にも対応していく予定だ。また、需要は限られるが、ヒンディー語やウルドゥー語、タミル語など、インド国内で利用されている各言語への翻訳も可能だ。
「インドでは広く英語が普及しているだけでなく技術力も高いので、DTPも非常にレベルの高いものが仕上がってきます」
と、同社の中島嘉伸さんは話す。一方で、文化の違いゆえに少々の問題があることも認識している。
「このインド企業では漫画を読んだことがない人も多かったので、まず“漫画とはこういうものである”とレクチャーするところから始まりました。また、性的な表現がインドの国内法に触れてしまうという点が、少々ネックになるかもしれません」
そのため、まず翻訳が可能か否かは日本側で確認してからインドへ発注する、というフローになっている。また、性的な点に限らず、文化の違いや認識の齟齬(そご)を埋めるために、Skypeを利用して常時やり取りできる仕組みも整えた。日本とインドとの時差は約3時間なので、ほぼリアルタイムでのやり取りが可能なのは心強い。現在、月100冊まで対応できる体制を整えているが、まずは今年1年で100冊を受注することを第1目標にするという。
■翻訳に「文化」まで反映させられるかがカギ
言うまでもなく、インドはアウトソーシング大国だ。英語の普及率の高さから、英語圏の国々が各種のコールセンターをインドに設置していることはよく知られている。2010年に同国のソフトウェア業界団体・NASSCOMが発表した調査結果によれば、インドのITおよびBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービス市場の輸出額は497億ドルに達している。日本の漫画を翻訳する事業も、このBPOサービスの一つになるだろう。
「漫画の翻訳は、誰に何を伝えようとしているかを理解していないと難しいものです。マニュアルであれば翻訳は簡単かもしれないが、例えば日本文化に対する理解が低い翻訳者が、俳句を翻訳することができるでしょうか」
と翻訳家の兼光ダニエル真さんは指摘する。漫画を翻訳する際に、翻訳した文章を読む対象者が自分の訳したものをどのように読むか。あるいは、文化的背景なども考えて、元の文章の作者は何をどのように考えているのか、それを理解することは必須だ。
今でも海外で翻訳出版されている日本の漫画の中には、トンチンカンな翻訳も散見される。それらの粗悪品は、既存の漫画ファンが仕方なく買っているだけ。結果的に、市場の将来性も裾野を広げる可能性もすべて失ってしまっている。
例えば、日本の漫画をアメリカで翻訳出版するにあたって、インドに翻訳を発注するとする。そうすると、どうしてもインドは、単に言語を変換する作業を請け負った第三者であることは否めない。となれば、翻訳に際しての作者の意図などを伝える作業、完了後の精度のチェックをかなり綿密に行わなければならないだろう。
出版社にとって、英語に長けたインド人に漫画翻訳をアウトソーシングする場合の魅力は、まず安さにある。ただ、このサービスに興味を示す出版社があるとすれば、すでに自社で海外展開を行っている大手よりも、中堅どころになると思われる。翻訳作業だけでなく、海外展開や版権管理まで含めて安価で代行するというところまで打ち出す必要が出てくるかもしれない。そうなると、自社で翻訳家を抱えて、海外展開もすべて社内でやる場合と、どちらがコストを抑えて利益を得ることができるだろうか?
むしろ、インドで翻訳作業を行って、そのまま漫画の新たな市場として開拓されつつあるインドで展開するほうが、すんなりといくのではなかろうか。まだ日本の漫画に触れたことがない人が多いインドが、有望な市場であることは間違いないのだから。
(取材・文=昼間たかし)
●マンガ翻訳サービス(電子書籍翻訳サービス)
<http://www.netsupport.co.jp/translation/service_flow_manga.html>
ナマステ。
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