やっぱり同じ穴のムジナ? 江原啓之の霊媒師批判に違和感
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
第1位
「山口組ほか連日の『極道サミット』そこで話し合われていること」(「週刊現代」3月24日号)
第2位
「広告と違い過ぎ!マック新作『ショボさ』に大批判」(「フライデー」3月23日号)
第3位
「江原啓之『中島知子さんにアドバイスしたこと』」(「週刊現代」同)
先週金曜日(3月9日)にビジネス情報誌「エルネオス」(http://www.elneos.co.jp/)でノンフィクション・ライター松田賢弥と対談した。小沢一郎が自民党の最年少幹事長になったときからだから、20余年もの間小沢のスキャンダルを追い続けてきた、ギネスブックもののライターである。
その日に行われた論告求刑公判で検察官役の指定弁護士側から「禁固3年」を求刑されたが、それをどう思うかと聞いてみた。彼は、今回の裁判で仮に無罪になったとしても、権力をカネに変えてきた小沢流の汚い政治手法が消え去るわけではないから、これからも引き続き追及していくと語った。
野中広務元自民党官房長官の言うように「あいつは税金を使って資産形成してきた政治家」であることを忘れてはいけない。親小沢の一部週刊誌が「それでも小沢は有罪判決」と、検察のトップや反小沢の政治家たちが小沢を有罪にしようと蠢いていると批判している。
たしかに甘い見通しで収賄事件に持ち込めると読んでいた東京地検特捜部のずさんな捜査は批判されてしかるべきではあるが、数十億ともそれ以上ともいわれる彼の不透明な蓄財の実態を明らかにするのは、メディアに課せられた責務であるはずだ。
土日(3月10日、11日)で長野県の栄村へ取材に行ってきた。この村は人口2,000人強で、その半分近くが高齢者である。名高い豪雪地帯で森宮野原駅には昭和45年に降った降雪量785センチを記念する柱が立っている。
この村が昨年3月12日の早朝3時59分に震度6強の地震に襲われたのだ。一部の地域では震度7を記録して家が壊れ、橋が崩落するなど甚大な被害を被った。しかし、それほどの大地震にもかかわらず死者はゼロだった。一人暮らしをしている78歳の女性はこう語ってくれた。
「その夜は東北の津波の被害をテレビで見ていて、大変なことが起きたんだと遅くまで起きていました。2時すぎに床に入りウトウトすると突然ドカーンというものすごい揺れが来て、家中のものが飛んだり倒れたりしました。ようやく地震が収まって寝室から出ようと思ったらドアが開かないの。そこらに散らばっている棒のようなもので叩いてもダメで、困ったなと思って、ふと気がついたら首に緊急通報のペンダントを掛けていることに気がつき、そのボタンを押したの。そうしたら外に向けて『私を助けてください』という声が鳴り出し、それがどんどん大きくなって、近所にいる人たちが『大丈夫か』と言いながら助け出してくれたのよ。あれがなかったらどうなっていたか」
そう言って涙ぐんだ。この緊急通報システムは「じしんたすけ」という名称で、栄村に住む一人暮らしの高齢者70人に村から貸し出されているのだ。一人暮らしの高齢者の命をどう守っていくのかは福祉政策の最重要課題の一つである。その典型的なモデルが栄村にあるので取材に行ってきたのだが、詳しいことはあらためて報告することにしたい。
さて、このところ売り物であるはずの巻頭特集に見るべきものがない。そこで今回は、小粒ながら面白く読んだ3本を選んでみた。
オセロ中島騒動はようやく収束へ向けて動き出し、女霊能者の「洗脳」から中島が抜け出せるのかに焦点が移ってきたようである。
私はスピリチュアリストなる者をまったく信じないが、「現代」の江原の言い分は、そういう類の人間が今回の事件をどう見ているかがわかって面白く読んだ。
江原のもとに、中島の友人がアドバイスを求めてきたのは昨年夏頃だったという。
江原はおおよそこのようにアドバイスしたという。中島は京都のお嬢さん育ちで、何不自由なく育ってきたのに、ふとしたきっかけで、親の言うとおりに生きてきたせいでこうなったと、不満を親の責任に転化してしまう。よくあるケースだが、連れ出すのは身内にしかできない。
ここから江原の口撃は「マインドコントロールは怖い」と連呼するワイドショーへと向かう。中島と霊能者の関係は依存と依存の「共依存」関係で、専門家がテレビでまことしやかに解説するほどの話ではないと話す。
「マスコミは占い師=悪、中島さん=被害者という図式を作って煽る。それでワイドショーの視聴率も上がるそうです。しかし、真っ当な大人に『この件の被害者は誰?』と訊いたら、きっとこう答えるでしょう。『家賃を滞納された大家さんなり管理会社』と。(中略)中島さん=被害者という図式には違和感を禁じえません。40歳になる大人が、好きで選んだ道です。そして、占い師と一緒に、第三者である大家さんに迷惑をかけた。二人は同罪なんです。私が恐ろしいのは占い師の洗脳などではなく、こうした当たり前のことを、ワイドショーで言う人が一人もいないことです」
また、件の女霊能者についてはニセモノだと言い切っている。
「この占い師はタチの悪い人です。そしてニセモノです。本物は『肉を食べなさい』とは言いません。あれしろ、これしろと命令する人はすべてニセモノです。私も含め、スピリチュアルな領域を生業にする人間の使命は、人々が自立して生きる手助けをすること。自立を阻んで依存させるなんて論外です」
江原の話に、細木何某と一緒にテレビに引っ張りだこだった過去の栄光への郷愁と、訳のわからない女霊能者のために、占いもスピリチュアルも一緒くたにされて、生活権を脅かされるのではないかという怯えを感じるのだが、私の深読みしすぎだろうか。
インタビューされる人間は、他者を批判することで自分の優位性・正当性を主張できると目論見ながら、読者には「同じ穴のムジナ」と思われてしまうことがある。それもインタビューの面白さである。
「フライデー」は3月2日から期間限定で販売をはじめたマクドナルドの「レタス&ペッパーバーガー」が、看板に偽りありだと批判している。
このバーガーは120円。フライポテトとドリンクをとっても490円という安さだそうだ。私には「すき家」の250円の牛丼のほうがバリューがあるが、それはともかく、このバーガーのうたい文句は「シャキシャキのレタスとソースの絶妙なハーモニー」だそうだが、注文すると広告写真とあまりにも違うので、客から「だまされた」という批判が相次いでいるそうだ。
たしかに広告写真と比べると同じものだとは思えない。「ハンバーガーがしょんぼりしている」という評は言い得て妙である。
新宿区にある日本マクドナルドのPR部は、商品の具材料は同じだが、見た目で誤解を招いた可能性があると認め、「今後の表現については慎重に対応し、念のため正しいオペレーションを再確認するよう各店舗には伝えてあります」と答えている。
こうした「消費者の味方です」的な記事はどんどんやるべきである。マック側の言うとおり、写真にどれだけ近づけたものが提供されるようになったのか、フォローもちゃんとしてほしいものだ。
極道情報は「アサヒ芸能」や「大衆」、「実話」の専売特許になっているが、今週は珍しく「現代」が4頁の特集を組んでいる。
今年に入って、山口組の総本部長らが上京して稲川会の理事長と会談、山口組若頭補佐と住吉会渉外委員長が会談、道仁会会長が稲川会理事長、住吉会渉外委員長と会談、さらに山口組六代目・司組長と稲川会・清田会長の頂上会談が行われたのではないかという情報まである。
この「極道サミット」ともいうべき会談は、今国会で成立が予想されている第5次改正暴対法対策ではないかと捜査関係者が解説している。
この法律は暴力団にとって、のど元へ突き付けられた刃であるという。それは現在22団体ある「指定暴力団」の中からさらに悪質な「特定指定暴力団」を認定して、徹底的な法規制を行おうとするものだからである。
これまでは組の縄張り内で「みかじめ料」を要求しても中止命令などを出して、それに従わない場合は逮捕できることになっていたが、認定されるといきなり逮捕できるのだ。
また抗争を誘発するあらゆる行為に対しても、中止命令なしに逮捕することができる。現在は「特定指定」が濃厚だとみられているのは九州の4団体だが、山口組も指定される可能性があるそうだ。
アメリカからも「山口組は組織犯罪のウォルマート」といわれ、口座の金の没収など厳しく締め付けられるようになってきた。そのため09年から10年の1年間で1,700人もの構成員がシノギができず、上納金が払いきれずに組を抜けたそうだ。
「平の直参組長で月に約85万、幹部で95万、頭補佐などの幹部で105万円を毎月、本家に納めなければならん。その他、上部団体から毎月トイレットペーパーや、水なんかを市価の倍で買わされる。今までは山口組の金看板を出してシノギができたけど、一連の条例・法律でそれが使えんようになった訳よ」(山口組二次団体の幹部)
このままでは末端組合員の潜在化やマフィア化が進んでいくことになると、司組長自身が心配しているという。
ナンバー2の高山若頭は恐喝容疑で逮捕されているが、彼が会長を務める弘道会には全国の暴力団組織から恐れられている「十仁会」と呼ばれる特殊部隊が存在するといわれてきた。
「十仁会は十数年前にできたとされ、調査能力、索敵能力、襲撃能力に特化した部隊です。03年に弘道会と住吉会系の団体の間に起きた『北関東抗争』では、弘道会が敵の居場所を正確に把握して攻撃していますが、その背後で十仁会が暗躍したと言われています」(警視庁捜査関係者)
九州で起きている抗争では市民の命が危険にさらされる事態が起きている。「国が認めた暴力団」である警察が権力を振りかざして暴力団を徹底的に追い詰めると、彼らは生き残りをかけて死にものぐるいになり、流血事件が多発して多くの市民が巻き添えになりかねない。
昔から、アウトローは生かさず殺さず、が鉄則である。今の法規制は最後の逃げ道まで塞いでしまってはいないか。そんなことを考えさせてくれたこの記事が今週の第1位。
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
江原さんに言われても……。
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