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妄想炸裂! “来なかった21世紀”を描いた『昭和ちびっこ未来画報』

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『昭和ちびっこ未来画報 
ぼくらの21世紀』(青幻舎)

 空飛ぶ自動車やお手伝いロボット、宇宙旅行に海底散策など、子どものころ、やがてやって来る21世紀という“素晴らしい未来”に心踊らせた経験は誰にでもあるだろう。そんな、昭和の子どもたちの最大の関心事であった「21世紀の未来予想図」をまとめた本が、『昭和ちびっこ未来画報 ぼくらの21世紀』(青幻舎)だ。

 1950~70年代、「未来予想図」は子ども向けメディアの定番コンテンツだった。戦後、焼け野原になった日本は復興まで50年かかるといわれる中、わずか10年という驚異的なスピードで経済的な復興を成し遂げた。未来への希望が抱けるようになったころ、学習雑誌などにこぞって掲載されるようになったのが未来予想図だ。子どもたちだけでなく、大人にとってもまさに希望の象徴だった。そして迎えた高度経済成長。高速道路や新幹線が登場し、東京オリンピックが開催されるなど、まるで未来予想図がどんどんと現実化されていくような光景に、誰もが夢中になった。

 未来予想図にはいくつかの定番がある。過去から未来へと急速に進む経済成長の象徴として好まれたのが、乗り物だ。自動車や鉄道、飛行機、船など、とにかく“スピード感”を強調した絵が数多く描かれた。
 
 また、ロボットやコンピューター、宇宙といったテーマも定番中の定番。万能お手伝いロボットや機動隊ロボット、惑星探検やニコニコと街を歩く宇宙人など、まるでSFの世界。その一方で、コンピューターの誤算によって戦争が誘発されたり、人間の脳が支配されてしまったりするなど、不思議とリアリティがあってドキッとさせられるものも描かれている。 

 テレビの薄型化や3D化、通信衛星を活用した国際電話の登場など、もちろん当時の予想が的中したものもあるが、宇宙への移住や空飛ぶ自動車など子どもが心底ワクワクしたものほど現実化されていない。けれど、“自由奔放に未来を空想する”ということは、当時の子どもたちにとって一番身近で、最高の遊び道具だった。「ありえない」と思いながらも、やっぱり少し信じてしまうような、そんな不思議な魅力がつまっている。

 未来予想図は60年代を全盛期に、徐々に失速していく。「今」を楽しむ80年代のバブル期で完全に力を失い、「世界の終わり」のような阪神大震災と一連のオウム事件が起こった90年代には完全に姿を消してしまった。

 あのころ期待した“未来”は世界貿易センタービル崩壊の映像で幕を開け、アフガン戦争やイラン戦争といった20世紀の惨事が繰り返され、われわれは原発事故という未曾有の大事件に直面している。そして、いまや誰も未来について語らなくなってしまった。

「僕らは70年代の『終末』イメージに必ず登場した二つのもの、つまり『大震災』と『放射能汚染』が現実となった世界に生きている。今の僕らが楽しみたいものは、『世界の終わり』の次に描かれる『未来予想図』だ」(本文より)
 
 確かに、いま私たちが生きている世界は明るくない。けれど、最悪のいまから抜け出す唯一の方法は、明日への好奇心なのではないだろうか。かつて私たちが目指した未来は“物質的な豊かさ”だったが、これから目指すべき未来の姿はそれとは違う。もう誰もがそのことに気付き始めているはずだ。

●初見健一(はつみ・けんいち)
1967年、東京都渋谷区生まれ。日本大学英文学科卒業。出版社勤務を経てフリーライターに。主に60~70年代のキッズカルチャーについての話題など、レトロな戯れ言をネタに活動中。

昭和ちびっこ未来画報

妄想するのは自由です。

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最終更新:2013/09/09 11:29
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