予算は控えめ、計画は壮大 新たな漫画の潮流を生み出すか?「京都版トキワ荘事業」
#マンガ
大学、専門学校から塾など多様な形で漫画家を養成することを目指すシステムが、次々と生まれている。そうした中で、京都市が2012年度から新たな事業として「京都版トキワ荘事業(仮称)」を計画している。その内容は、京都市内にある京町家で、漫画家志望の若者たちに共同生活を送りながら執筆に専念してもらおうというものだ。
同様の事業としては、東京都のNPO法人NEWVERYが行っている「トキワ荘プロジェクト」がよく知られている。こちらは06年の活動スタート以来、既に何人かの漫画家をデビューさせることに成功している。全国唯一の「マンガ学部」を持つ京都精華大学をはじめ、京都国際マンガミュージアムといった漫画関係の拠点施設も持つ京都市。そうした中で、行政主導によって新たな事業を行う目的は、どこにあるのか?
「京都精華大学や京都造形芸術大学をはじめとして、漫画について学ぶことのできる大学はいくつもあります。ところが、そこで漫画を学んだ学生たちが卒業後にどうするかといえば、ほとんどが出版社の集まる東京に行ってしまいます。そこで、漫画家志望の方々に京都に留まってもらう方法を考える中で、今回の計画は生まれました」
と語るのは、京都市産業振興室の草木大さん。せっかく漫画について学べる大学がそろい、漫画家志望の若者が集まっているのに卒業したらみんな出て行ってしまう。それでは惜しい、ということが事業の出発点。大学でも漫画の描き方を含めて教えているわけで、やっている内容がかぶる気もするが、京都市の事業は「大学よりも実践的な作品づくりを行ってもらう」ことに目的を絞って計画しているという。
そのため、予定では募集人数は男女計8人と少なめだ。もちろん、単にカンヅメにして執筆させるわけでなく、プロの漫画家による勉強会を行うなど実践的な指導も行っていく予定だという。人数も控えめだが、12年度の予算案に盛り込んでいる予算も約300万円と控えめだ。予算の主な使い道は、まず、市が漫画家育成を行うということを広く知ってもらうための事業だ。現役のプロ漫画家を招いてセミナーを開催するなど、さまざまな形で周知を図っていく予定だという。
本格的な事業の開始は13年度からで、12年度の1年間を事業の周知に充てていることや、控えめな予算案を見ると、かなり慎重に計画を進めている。これが好印象なのか、議会でも特に反対意見はなく、むしろ議員からも応援されているのだという。大企業の工場を誘致して、雇用を生み出し、瞬く間に地域も潤うといったものとは違い、文化産業はジワジワと効果が表れていくもの。いきなり壮大な計画を提示して何億円もの予算を提示したりすれば「そんなの、ウチの地域でやる意味あるのか?」と反発されるのは必至(実際に「漫画で町おこし」をもくろんだはいいが、そうした問題を抱えている自治体もある)。まず、準備にじっくりと時間を取って事業を進める計画を立案するあたり、担当者も漫画のことを「よくわかっている」のだと思われる。
実際、最初から志望者に住んでもらう物件を決めて事業を進める案もあったそうだが「やはり、十分な準備期間が必要」ということに落ち着いたそうだ。ちなみに、物件は京都国際マンガミュージアム周辺で探す予定だそうで、かなり漫画に囲まれた時間を過ごすことができる形になりそうだ。
■地域の特性を生かして漫画に京都ブランドを
しかし、それでも気になるのは「京都で漫画を描くことにメリットがあるのか?」という点である。
「京都は映画発祥の地でもありますし、神社仏閣も数多い、漫画以外の文化もとても充実している街なんです。ですので、実際に住んでいただくことで、そうしたさまざまな文化に触れて創作活動に役立ててもらうことができると考えているんです」
と、前出の草木さんは話す。地域の持つ文化レベルの高さという点では、京都は東京に匹敵する、あるいは凌駕している街であるのは間違いない。また、地域の特徴として学生が多い、イコール未来を目指している若者が東京よりも狭い地域に密集して暮らしていることも、大きなメリットとして挙げられる。こうした利点を、いかに利用できるかが事業の成功のカギになっているのではないだろうか。
この事業は、単にプロ漫画家を育成するだけでなく、京都を漫画文化発信の一大拠点にまで成長させる壮大な計画のための一環だという。いずれは京都発の漫画が、漫画産業の中のひとつの核となる時代がやって来るのかもしれない。
(取材・文=昼間たかし)
いいね!
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事