思わずドキっ!? 人気声優・能登麻美子が初エッセイで見せた意外な内面世界
#声優 #インタビュー
『君に届け』の黒沼爽子や『地獄少女』の閻魔あいなど、儚げな美少女を演じさせたら右に出る者はいない。そんな史上最強のウィスパーボイスを持つ人気声優・能登麻美子。
地球環境をテーマにしたラジオ番組「地球NOTE」のMCを務め、オーガニックなサウンドとその歌声が優しくマッチする主題歌「青のキセキ」(ランティス)でアーティストとしてもデビューするなど、「声」と「言葉」を通じてさまざまな表現に挑む彼女が、自身初となるオフィシャル・フォトエッセイ『クオリア』をTOブックスより発行した。
今回は、沖縄と箱根で撮影された多数のフォトと、能登自身が直筆で書き下ろしたエッセイで、自身の全てをビビッドに描きだしたファン必見の一冊『クオリア』の世界を、彼女自身に解説してもらった。
■心のおもむくままに綴った直筆エッセイ
──今回出版された『クオリア』は、能登さんの初の公式本になるわけですが、どういう経緯で今回の企画がスタートしたのでしょうか。
「もともと声優の雑誌や、保険会社のウェブサイトなどにコラムを書かせていただいていて、そのネタになるかなと思って日々感じることなどを書き留めていたんです。それを、たまたま見ていただく機会があって、そこから『面白そうだね』という声をかけていただいて、今回の企画につながったんです」
──なるほど。『クオリア』の本文はすべて能登さんの手書きとなっていますが、これらのテキストは今回のために書き下ろされたのでしょうか。
「今回の本を出すことが決まってから書いたものもあれば、それ以前に誰に見せるでもなく、ばっと書きなぐったものもあったり。あとは全体の構成が見えてきてから、セクションごとに付け加えていった文章もあります。さまざまなシチュエーションで書きましたね」
──その文章も、きれいで耳触りのいい言葉ばかりではなく、「醜い」「卑しい」といった強い言葉も出てきます。個人的には「儚い」とか「優しい」というようなイメージを能登さんの声や演じるキャラクターから感じることが多いのですが、生々しい手書きの文字で書かれたこのフレーズを目にした時、思わずドキッとしてしまいました。
「人は清濁を併せ持つ存在なので、汚い部分や醜い感情、卑しい感情も持っていると思うんです。だから、きれいなものもきれいじゃないものが隣り合う生々しさというものを表現したかったんです。どちらの感情も飾らずに、シンプルに書くよう努めました。もしかしたら読んでくださる方が、『この本をもう2度と開きたくない』と思うかもしれないという不安もあったんですが、それでもありのままを書くことのほうがいいと思ったんです」
──今まで、ここまでリアルに能登さんの内面をさらすことはありましたか?
「あるとするなら、それがお芝居だと思います。今まで、いろんな役をアニメーションでやらせていただく中でものすごい負の感情を持っている役や、怨念めいている役との縁もあったのですが、役の感情と自分を結び付けて昇華させるのが『芝居』だと思っています。ただ、自分のリアルな言葉で感情を表現するという経験は初めてだったので、そういう意味ではまたお芝居とは違うのかな。書いている時は夢中だったので、書き終わるとぐったりとしていました(笑)」
──怒りのセクションでは、文字にもすごく力がこもっていますね。
「そうですね。ひどい殴り書きですね(笑)。清書したものも中にはあるんですが、多少見にくくても、そのままでいってしまった部分もあります」
──読んでいて面白かったのが、絵具で書かれた文字の色の濃淡がはっきりと見える点ですね。「ここで絵具を付け直したのかな?」とか「ここまで一気に書いたんだな」という風に能登さんの呼吸が感じられるような気がしました。
「本当ですか? うれしい! そういう部分もあえてそのままに、心の赴くままに、自然体でやれたらいいなと思っていたんです」
■初めての経験をした箱根での撮影
──写真と文章は互いに関連付けて撮影したり、書いたりしたのでしょうか。
「もともとは文章が先なんです。たくさんある文章の中からある程度絞り込んで、そこからセクションごとに分けて、この言葉にはこの写真かなと後から当てはめていきました」
──撮影はどこでされたんですか?
「緑が多い写真は沖縄ですね。沖縄の写真は、今やっているインターネットラジオ番組『地球NOTE』主題歌のシングルCD『青のキセキ』のジャケット撮影の際に撮ったものです。実は『クオリア』は『地球NOTE』との連動企画でもあるので」
──なるほど。他にも街中や電車の中でのシチュエーションもありますね。
「そちらの舞台は箱根の強羅です。黒い衣装のところは旅館を貸していただいて撮ったんですよ。なるべく自然がいっぱいな沖縄の風景と被らないように。かつ日常性があって、ちょっと日本的な雰囲気があるところ。あとは秋が近い時期に撮ったので、赤や黄色が強いところというところで箱根になりました」
──撮影時の思い出深いエピソードなどはありますか?
「旅館の中での写真は、お芝居のようにシチュエーションを決めて撮ったのですが、そういう撮影は初めてだったので印象深かったですね。『笑ってください』と言われることはあっても、『苦しそうな顔をください』とか『悲しそうにお願いします』と言われることはなかなかなかったので(笑)」
──そういう点では、今まであまり見ることのできなかった能登さんの姿が見られそうな一冊ですよね。
「そうですね。人にはこういう部分もあるんだ。自分にもこういう部分があるかな、という風に読者のみなさんの心に引っかかるフックになればうれしいですね」
──ちなみに能登さんご自身は写真を撮ったりするんですか?
「実は最後のページの写真だけは私が撮った写真なんです。最初は自分の撮った写真と自分の言葉で本を作る、という案もあったんですけど最終的にはこういう形に落ち着きました。今回、写真って本当に難しいんだなって痛感しました(笑)。昔、写真家さんの事務所でアルバイトをしていた時に壊れた一眼レフをもらって、よく写真を撮っていたんですが、このところはちょっと御無沙汰で……」
──ある意味、言葉、歌、ラジオ、芝居、そして写真と、今まで能登さんが経験してきたことが、一つにつながった本がこの「クオリア」という風にもいえますよね。
「確かに。本当に不思議な縁ですよね」
■次の目標は絵本? 能登麻美子の目指す次なる表現とは……?
──今回の『クオリア』もそうですが、ラジオ番組「地球NOTE」、シングル『青のキセキ』。あとは作詞家・松井五郎さんとのコラボで朗読CD『地球NOTE 時のしおり』をリリースされたりと、ここ最近の能登さんは声と言葉というものを通していろいろな表現に挑戦されているように感じます。
「そうかもしれません。もちろんベースは声のお仕事なんですけど、垣根を作らずに言葉や声というものを通した表現にかかわっていけたらいいなということは思っています」
──自分自身の言葉で表現をするという行為は楽しいですか?
「苦しいけど楽しいです。私の普段のお仕事である誰かの言葉で表現するということと、自分自身の言葉で表現するということは、根っこは同じでもやっぱり違う作業だと思います。なので、今回の「クオリア」では生々しいというか、そのものを表わせたというか。そういうことをできたということが、最大の喜びです」
──今後もそのようなお仕事をやっていきたいと思いますか?
「そうですね。今後も自分の中から出てくる言葉を表現するお仕事に携わる事ができたらいいなと思っています。それが文字で表すという形か自分でしゃべるという形かは分からないのですが、もっと自分の生身を使って表現していきたいです」
──では、小説なんかどうですか?
「いや! 物語が本当に書けないんです! 挑戦したことがあるんですけど、うんともすんとも書けなくて! 本当に小説家ってすごいんだなと思いましたね。絵本くらいの文章の量ならいけるんじゃないかなと思うんですけど……(笑)」
──個人的には、能登さんの文字のタッチで描かれた絵本も読んでみたいような気もします(笑)。
「本当ですか? じゃあがんばろう(笑)!」
──それでは最後に読者へのメッセージをお願いします。
「今回の本に収められた言葉なり色なり、写真なり、それらを見ることで、何か一つでも皆さんが感じて、喜んでいただけたらすごくうれしいです」
(取材・文=有田シュン)
●のと・まみこ
1980年石川県生まれ。声優、ナレーター。唯一無二ともいわれる「癒し声」を持つ声優として知られる。おっとりとした少女役を演じることが多い一方で、メインで少年役を演じることもあり、演技の幅は広い。また、CMのナレーションも数多くこなしている。
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