「さらば、愛しのアウトロー」カリスマ・瓜田純士引退試合 雄々しき華の散った夜(前編)
#格闘技 #THE OUTSIDER #瓜田純士 #アウトロー
”アウトローのカリスマ”こと瓜田純士(32歳)が、アウトローの世界に別れを告げた。
1月15日、ディファ有明で行われた地下格闘技イベント『BERSERKER(バーサーカー)旗揚げ戦』に参戦した瓜田は、この日を境にリングを離れ、アウトローの看板を下ろすことをブログ上で事前告知。瓜田の最後の勇姿を見届けようと、会場には多くのファンが詰めかけた。キックボクシング経験のある猛者を相手に、あえてまったく練習せぬまま、ノーグローブの金網デスマッチを行った瓜田。結果、コテンパンにやっつけられたが、おかげで過去の自分とは綺麗さっぱり決別できたようだ。痛々しくも清々しい、引退試合ドキュメント!
試合前の瓜田陣営はピリピリしたムードだった。瓜田専用の控え室となった会場応接間の入口には、黒人のSPふたりが門番のように立ち塞がり、部外者の侵入を断固として拒む。そして瓜田が動くたびに、SPがゾロゾロついて回る。
年末から年始にかけて、瓜田が各所とモメていたため、万が一の事態に備えて、主催者側が厳戒態勢を敷いたようだ。
そんな中、試合前の瓜田にインタビューを行った。
──アウトローの代名詞である瓜田さんが、ブログ上でなぜ突然、「1.15の試合を機にアウトローを辞める」と言い出したのでしょう?
「どこかとモメてるのが原因と思われがちですけど、実はちょっと違って。辞めようと思った理由は2つ。1つは昨年末、ものすごく偉大なミュージシャンの方と再会する機会がありまして。その方にインスパイアされて、自分の方向性をもうここで絞ろうかな、と思ったんですよ。トレーニングせずにアウトローの看板背負ってリングに上がるっていうのも、僕の表現活動の1つだったんですけど、もうそれは今日でラストにしようという考えに至りました。今日が引退試合になります」
──今後は音楽に専念するということですか?
「アーティスト活動の一環として、音楽にも力を入れていくことになります」
──アウトローを辞める2つ目の理由は?
「実は俺、2日前にやっと、府中(刑務所)を出て5年目を迎えたんですよ。これで初めて、世間でいうカタギになれた。出所後もトラブルは絶えなかったし、最近もあれやこれやと水面下で動かなくちゃならない毎日だったから、正直、疲れた。ガチで死ぬか生きるかをヤクザもんと背中合わせでやってきたけど、その苦労は誰にも分かってもらえない。いつも胃が痛い思いをするのは俺だけ。だから、もうバカバカしいな、アウトローの看板下ろして新しい人生を歩もうかな、と。だったら出所して5年という1つの節目は、いい機会だと。昨年末、ある事情で小指をツメたんですけど、そのあと、先述したミュージシャンの方に言われたんですよ。『ギター弾けなくなるぞ』って。いろいろやりたいことがあるのに、アウトローという言葉に縛られるあまり、その活動範囲が狭まるのはもったいない、と自分でも思うようになりました。だから、今日でアウトローを卒業します」
──ちなみに、卒業前夜の昨晩は何をしてました?
「昨晩というか、おとといからずっと、あり得ない飲み方をしてまして。まず、知れてる空手のチャンピオンかなんかが働いてるバーで、そいつが調子に乗ってるから頭に来てシメて、おまえ正座しろだのなんだのやっちゃって。そのあと謎の小金持ちが『俺のシュワシュワを飲め!』みたいなことを言ってきて。シュワシュワってのはドンペリのことなんですけど、それが何本も開けられて、酩酊状態になるまで飲んで。ちなみにその前に、焼酎1本空けてて、そのあともジョッキで1本分ぐらいは空けてるから、都合、焼酎2本プラス、シャンパンの連打でかなりやられて。昨日はゆっくりご飯でも食おうつって、パートナーとメシ屋に出かけて、そこで軽くハイボール2本飲んで。そのあとコンビニで氷結買って飲んで、それからカラオケ行って、ウイスキーのロックを2杯飲んで。ヤバい、カネがなくなってきた、というか、明日試合じゃねえか! つって帰って。で、今日はジャックダニエル!(と言ってテーブルの上の瓶を指差す)」
──出たっ! ジャックダニエル! 前回(記事参照)と一緒ですね。
「ちなみに前回は黒シャツだったから、今回は白シャツ。前髪はBERSERKERに合わせて青く染めてきました」
──さすがオシャレですね。しかし、試合に勝つ気はあるんですか?
「勝ち負けはハナからどうでもいい。”いかに一発入れるか”しか考えてない。『目立ちてえな、おまえら俺を見ろ!』ぐらいのノリですよ。さっきの開会式でも分かったと思うけど、地下格闘技界のスター選手と呼ばれる面々と比べても、俺が出てったときの拍手はケタ違いなわけじゃないですか。そこでもう、格の違いが分かるわけですから」
──トレーニングして本格的に強くなった瓜田さんを見たい、という声もありますが。
「20キロのダンベルを持ち上げるような事態って日常生活にあります? 昼間街を歩いてて、ピーター・アーツみたいなでけえ奴とケンカする機会ってあります? ないでしょう? だったら今以上の力って必要なくないですか? さすがにウイスキーの蓋を開けられなくなったらトレーニングも考えますけど(笑)」
──今日は瓜田さんの試合だけ、特別ルールで「ノーグローブ」。素手で殴り合うのは怖くないですか?
「1時間やれって言われたらイヤですよ。あるいは目の前に大木(たいぼく)が立ってて、それを倒すまで素手で殴り続けろと言われたら、大丈夫かなぁと不安にもなるけど、たかだかあんな子どもが遊ぶジャングルジムみたいなところで、人間と1分間、素手で殴り合うだけだから。そんなのはね、クラブで酔っぱらって不良とモメて、ビン持って殴り合うようなケンカをゴマンとやってきた俺の感覚でいったら、屁でもない。ノーグローブが怖いも何も、逆にグローブがあると邪魔でやりづらいんですけど、って感じですね」
──今後はストリートファイトも卒業ですか?
「もちろん卒業です。『なんだおめえ、ニワトリみたいな頭しやがって』と絡まれても、『ニワトリみたいですいません』って平気で頭下げますよ。ただし、大事なパートナーや友人や家族に何かあって、どうしても男として行かなくちゃいけないときは行きますよ。これは強調しておきますけど、アウトロー辞めても、男は辞めてないんで。でも、今後もし俺が行くとなったら、ぶった蹴ったのケンカじゃ済まない。最後まで行くことになるでしょうね」
──瓜田さんが抜けることで、今後の地下格闘技界にどんな影響があると思いますか?
「これだけは自信を持って言えるけど、今日パっと見渡した限り、俺の後釜になれそうな奴はいないし、俺以上の影響力のある奴もいない。今後、俺の代わりに、アウトローを名乗る奴が出てくるとも思えませんね。『瓜田さんがいなくなったあとにアウトローを名乗るのって、ちょっと俺ら、痛くない?』みたいな空気になっていくんじゃないかな」
──アウトローという言葉自体がこの業界では死語になる、と。
「そう。表現者でいる限り、俺がいつも心がけてるのは、『先駆者は辞めるのも先だ』ってこと。文化や流行を作った先駆者が自分であるなら、それを真っ先に辞めるのも自分であるべきだと思う。何事も勇退したほうが格好いいじゃないですか」
──自分の身に起きた物騒なトラブルをエンタメ化するところが、瓜田ブログの魅力だと思うのですが、今後はブログの内容も変わる?
「トラブルのことは書きませんよ。書いたら、あいつアウトロー辞めてねえじゃん、ってことになっちゃうから。とはいえ、『今日は公園でサンドウィッチを食べた。通りがかったおばちゃんが僕の煙草のポイ捨てを注意してくれた。ありがとう。今日はいい1日だった』みたいなブログが明日から毎日続いたら、ぶっちゃけつまんなくなっちゃうから(笑)、まあいろいろ考えますよ。基本的には『人が気になって気になってしょうがない』という動きをするつもり。あいつ、次はどこに出てくるんだろう、次にどこに行くんだろう、と常に追われる存在でありたいですね。今後何の結果も残せなかったら、所詮はそれまでの男ってことです」
──ファンにメッセージをお願いします。
「これ言うと反感買いそうで怖いんですけど、本音を言うと、『俺はおまえらのためにやってるんじゃねえ。俺は俺のためにやってるんだ。だからおまえらもおまえらの人生を生きろ』ってことですね。まあもちろん、応援していただけるのは非常にありがたいんですけどね。あと、ファンの方々に伝えたいのは、『越えられない壁はない』ってこと。俺自身、これまで胃が痛くなるようなピンチがたくさんあったけど、結局、どれもくぐり抜けてきた。すべての物事は、どんだけ怖くてもどんだけ不安でも、ひとりで責任を取る、ひとりで話をつけに行く、という姿勢で取り組めば、たいていなんとかなる。これは実体験を通じて言えることですね」
試合前にここまで熱く語ってくれる選手も珍しい。瓜田のサービス精神は、やはり別格である。
(後編につづく/取材・文=岡林敬太/撮影=オカザキタカオ)
おつかれさまでした!
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