なんと! PTAも真っ青 “騎乗位”も”近親相姦”も描く地上波エロアニメ過激化の真相
#テレビ #アニメ
──2000年代から地上波の深夜帯を席巻することとなったテレビアニメだが、昨今エロ描写の過激なものが増加している。自主規制を常態化させながら、放送されている背景には、判然としない規制基準とテレビを利用せんとするアニメ業界の思惑があった──。
近年、23時から27時を中心とした深夜に地上波で放送されている、いわゆる”深夜アニメ”でのエロ描写が過激化している。代表的な例を挙げれば、騎乗位、後背位、正常位とさまざまな体位でじっくりと描くセックスシーンに加え、主人公と実の妹の近親相姦といった倫理的なラインをも軽々と飛び越えた『ヨスガノソラ』(2010年/TOKYO MXほか)を頂点に、バトルとエロを融合させ、ヒロインたちが戦うたびに執拗なまでにおっぱいが露出する『聖痕のクェイサー』(10年/チバテレビほか)シリーズや『魔乳秘剣帖』(11年/全国独立局系)など、その扇情的な描写が一部アニメファンの間で大きな話題を呼んだ。また現在放送中の作品でも、『マケン姫っ!』(11年/テレビ埼玉ほか)や18禁ゲームが原作の『真剣で私に恋しなさい!!』(11年/テレビ神奈川ほか)といった、エロ描写に特化したタイトルが、毎週地上波のテレビで放送されている。
これまでも深夜アニメは、エログロバイオレンスを取り入れた、ハイティーン以上のアニメファンを対象とした作品が多く存在していたが、特に00年代中盤以降、”エロい”アニメが一定の割合を占めるようになっていった。
注目すべきは、前述の作品を含む”エロい”アニメのテレビ放送時には、おっぱいやお尻に黒い線や湯気を重ねて隠す、各作品独自のアイコンで乳首を覆う、女性の体を発光させて裸体を見えなくしてしまう、という具合に、完成した映像に自主的な表現規制が加わっていることだ。こうした規制の対象となるのは、性交シーンや局部はもちろんのこと、主に女子のパンチラ、バストや乳首など。さらに、自慰といった擬似性行為や女性の扇情的な声にまで及び、その範囲は幅広い。近年では、そうした画像処理が画面の半分以上を覆い尽くし、視聴時に何が起こっているのかまったくわからない作品や、規制された状態での放送が常態化している作品が散見される。
こうした作品は、DVDやブルーレイといったパッケージ化の際に、規制を緩めて湯気や光を外したり、絵そのものをエロく描き直すなどの加工が加えられた「ディレクターズカット版」として、一部R15指定がつくものもあるが、基本的に全年齢向けに発売される。どころか、DVDの宣伝文句として、こうした規制が解除されていることを堂々とうたっているものもある。元来避けられるべき表現規制のかかった作品が、かように公然と放送されている裏側には一体、何があるのだろうか?
■密室で決められるアニメの表現規制
まず、アニメにおける表現規制は、一律の基準があるわけではない。「最近だと『真剣で私に恋しなさい!!』で、女性の胸がテレビ神奈川での放送では映っていたのに、TOKYO MXではアイコンがかぶせられていた。このように、規制の度合いは、放送するテレビ局で異なる」とアニメ制作会社社員は語る。アニメファンの間では、テレビ局によって規制の基準が違うことは広く知れ渡っており、同一のアニメにおける放送局別の規制度合いをネットで比較し、自分の見たアニメがよりエロい版だったかどうかで一喜一憂するという”エロの地域格差”が生じている。
こうしたテレビ局毎の規制に関して、中でもテレビ東京は、その基準が厳しいことで有名だ。同局は女性のパンチラさえ厳格に規制しているといわれ、実際に、「『チューブトップを着た女の子のバストアップショットはパッと見、裸に見えるから、描くのはやめてくれ』と言われたこともある」(同)といった声もある。同局視聴者センターに、アニメの規制基準について聞いてみたところ、「当局の基準のもと、放送しています」と冷たくあしらわれてしまった。
一般的に東京キー局を中心とした民放VHF各局は規制が厳しく、独立UHF放送局は比較的寛容といわれている。テレビ東京のネットワーク局であるテレビ愛知のアニメ担当者に問い合わせてみると、「民放基準などに沿って判断していますが、一般的に広範囲に放送を配信している局は厳しいです。反対に独立UHF局は審査チェックが甘い傾向にありますよ」と、見解を語ってくれた。また、CSなどで視聴できるアニメ専門チャンネルに関しては、子ども向け番組を多く放送するキッズステーションは厳しく、アニメファン向けで視聴年齢制限がかけられるAT-Xは比較的緩いといわれ、視聴者ターゲットの違いによって基準の度合いが異なっているように見受けられる。
「こうした表現に関する規制の基準は基本的に明文化されておらず、監督や製作プロデューサーといった上層部の人間が、テレビ局や出版社、広告代理店から組織される製作委員会の会議などで、基準を決めています。実際の規制は演出、監督、各社のプロデューサーが集まる編集の最終段階で入れるパターンが多く、局側のプロデューサーが立ち会わない場合もあります。そうした場合、局側でテープをチェックした際に、映像に規制を入れてしまうこともあるようです」(前出・制作会社社員)
このように、規制は作品やテレビ局によってバラバラに決められるのだが、『真剣で私に恋しなさい!!』の公式ブログで、放送を前に「中京地区の某局様には考査の結果断られました」と、放送中止のコメントが発表されるなど、放送可能な表現をめぐる現場の混乱も垣間見られる。規制の基準を統一しようという動きはないのだろうか?
「エロ描写についての統一的なガイドライン策定の動きはありませんね。作品によって描写のされ方がかなり違うので、ケースバイケースにならざるを得ない。10年に、アニメやマンガの性表現をめぐって話題となった都条例改正の時にも議論があったように、『何歳以下だったらこういう描写がダメ』というのも見た目と設定との食い違いがあって、結局主観になってしまうため、明文化は難しいんです」と別のアニメ制作会社の関係者も語るように、作品ごとに対応するほうが効率的だと現場も判断している様子がうかがえる。
■大人向けに舵を切り問われる倫理観
地上波の深夜アニメにおいて過激なエロ描写が氾濫するようになった背景には、テレビアニメの多くが深夜枠に移動したことと深いかかわりがある。
96年に放送されたアニメ『エルフを狩るモノたち』(テレビ東京)の成功に端を発し、00年代に入る頃にはすっかりテレビの定番プログラムとなった深夜アニメは、日本総合研究所によると、06年に全日帯アニメの116本をはるかに上回る163本という年間製作本数をマークしている。
一方、少子化が進み子どもの数が減っていくことで、従来のアニメ製作スタイルの主流であった”低年齢層をターゲットとした玩具やグッズ展開でのコスト回収”というビジネスモデルが崩壊し始めたのが90年代半ば。それと入れ替わるように、ハイティーン以上のアニメファン向けの作品が登場し、『新世紀エヴァンゲリオン』(95年~)の大ヒットが、”DVD販売などのパッケージ化によるコスト回収”というビジネスモデルを勢いづけた。また、同作はテレビ局や広告代理店、ビデオメーカーなどから出資を募り、一社当たりのリスクを軽減する製作委員会方式を採っていた。この方式は、以前から劇場映画製作で採用されてきたが、この時期からテレビアニメにおいても一般化し始める。ゴールデンタイムに放送されていたアニメと違い、深夜アニメは基本的に製作委員会が枠を局から買い取るパターンがほとんど。そこでより安価にDVDのプロモーションをかけるには、なるべく安い価格の時間帯、つまり深夜枠を購入することとなった。テレビ局としても、放送する番組の少ない深夜枠を売ることにうまみを感じていたようだ。
しかし、その後DVDなどのパッケージ商品市場の縮小といった影響もあり、06年をピークに深夜アニメの製作本数は減少。10年はおよそ70本。11年は11月時点で約50本と、製作タイトル数を減らしている。
こうした流れを受けて、製作側には確実に資金を回収できる戦略が必要とされ、「パッケージを売るために、製作委員会が規制を前提としたお色気描写を含むアニメ作品の企画を立ち上げることも多くなった」(前出・制作会社社員)。
それを裏付けるように、「テレビ放送時の規制解除が、DVD販売の際の売り文句になっているのは事実です。監督もプロデューサーも、テレビは DVDを売るための宣伝媒体としてしか考えていない人もいます」と、前出・制作会社関係者は言い切る。事実、テレビ愛知担当者も「スポンサーも、DVDを買ってもらったほうがいいと言ってますからね」とことも無げに話していた。
しかし、エロ描写を解禁するか否かで、DVDの売り上げはそこまで大きく変わるのだろうか? この疑問に対し、大手レンタルチェーン店の関係者は、「テレビ放送時の規制が解禁されるかどうかで、2~3倍くらい売り上げは変わりますね」と語るから驚きだ。エロの有無が焦点となるならば、18禁のアダルトアニメのほうが需要があるのでは、とも思われるが「テレビで放送した作品は知名度がありますからね。エロ描写を解禁したテレビアニメシリーズのほうが回転率がいい」(同)そうだ。
一方で、こうしたDVD販売というビジネスモデルも限界を来しつつある。不況の長期化で、DVDの売り上げを伸ばせなくなってきたのだ。一般社団法人日本映像ソフト協会によると、アニメのDVDやブルーレイといったビデオグラムの出荷高は、05年の約971億円をピークに、10年には約759億円にまで落ち込んでいる。大きな資金源を失い、行き詰まりを見せ始めたアニメの製作委員会方式に参入してきたのが、パチンコメーカーだ。
「製作委員会としては、ライセンスをメーカーに売ることで多額の製作費が見込める上に、後のパチンコ展開で人気復活も期待できる、ということでパチンコマネーが利益を回収するひとつの手段となってきています」。このように分析するのは『パチンコがアニメだらけになった理由』(洋泉社)を著したジャーナリスト・安藤健二氏だ。安藤氏は「製作委員会は、『○○製作委員会』などとまとめて表記されることが多いので、パチンコメーカーがこっそり参入していることもあるようです」と続ける。
アニメとパチンコの接近が象徴するように、今やアニメ業界全体が18歳以上に向けたビジネスとして志向されているように思われる。エロを際立たせたアニメも、お金を落としてくれるアニメファンの心をつかむために必要不可欠なのかもしれない。
また、アニメ誌で活躍するライター・多根清史氏が「規制すらも演出として取り入れる現在のアニメは、表現としてかなり成熟したところまできています。無茶なことをして人気を博していた、昔のバラエティ番組のメソッドを読み込んでいるようだ」と語るように、逆境を新たな表現として昇華させてきた日本のアニメに新風を呼び込む潮流として、エロ規制描写を評価する向きもある。
今まで見てきたような過激化するテレビアニメのエロ描写を、規制を逆手に取った新たな販売戦略ととるか、それともテレビ局や製作委員会が黙認する”炎上マーケティング”ととるか。考えてみたいところだ。
(文=有田俊/「プレミアサイゾー」より)
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