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プロ野球を100倍楽しむドラフト(裏)物語

菅野の指名拒否問題の裏側 スカウトや選手の人生を翻弄したドラフト事件史

【プレミアサイゾーより】

──11月21日、北海道日本ハムファイターズからドラフト1位で指名された東海大の菅野智之投手が、同球団への入団を拒否し、野球浪人を発表した。球界を賑わせたこの騒動、周知の通り、菅野が原辰徳巨人軍監督の甥であったことからも巨人単独指名が濃厚と見られていた中、日ハムが突如ドラフト会議で指名したことが発端だった。

 菅野の祖父であり、東海大学野球部総監督の原貢氏が「(事前に日ハムから)指名の挨拶がなかった!」と激怒したことが報じられたが、当然、挨拶がなかっただけで指名してはいけないという”決まりごと”はない。だが、そこはプロの世界。スカウトならではの慣習が横行しているという。ある球団関係者の話。

「今のような逆指名のないドラフト制度の中で新人と契約を取り付ける際、本人の意思はもちろんですが、家族や大学・高校の監督、親戚周りとのつながりは非常に重要。そのために各球団のスカウトは年中各地を回り、情報収集に奔走している。つまるところ彼らの仕事は、才能のある選手を見つけることだけではなく、選手に影響力のある人間との関係を作ることでもあるんだ」

 プロから目をつけられる選手とはいえ、高校生はもちろん、大学4年生といえども、百戦錬磨のスカウトや球団幹部にかかってしまえば、「目当ての球団にしか入りたくない!」という堅い意志など、コロッと崩れてしまう。そんな選手の将来を考え、サポートするのが親族であり、監督の役割でもあるのだ。スポーツ紙デスクが菅野の件を振り返る。

「彼は当初、12月に入ったら意思表明をすると言っていた。それなのに、11月21日の段階でプロ入り拒否の声明を発表。これが前倒しされたこと自体驚きですが、どうも日ハムの説明を受けた菅野本人が『日ハムに入ってもいいかな……』という雰囲気になってしまった。菅野が尊敬してやまない投手はダルビッシュ有で、彼と一緒に投げようと言われれば、それ以上の誘い文句はない。12月まで待ってしまえば、それこそ菅野が日ハム入りの意思を固めてしまう可能性すらあった。だけど、彼の意向を断固として認めさせなかったのが、原貢氏と東海大の関係者だったとか。彼らは『日ハムの誠意が感じられなかった』などキレイごとを言っていますが、要は選手の気持ちは無視で、自分たちのメンツを保ちたかったのでしょう。ドラフト前、巨人に対して『ほかには行かせません』などと威勢よく口約束したという話もあり、ここで日ハムに入団させてしまうと、東海大学と巨人の”太いライン”に悪影響を及ぼしますからね」

 学校と球団の”ライン”については後述するが、本人を口説き落とす前に周りを口説き落とすことは、交渉をスムーズに運ばせるための鉄則。元球団スカウトが、大物揃いだった4年前のドラフトについて口を開く。

「大阪桐蔭・中田翔(日ハム)、成田高校・唐川侑己(ロッテ)、仙台育英・佐藤由規(ヤクルト)というBIG3が高校野球を沸かせた07年、3人ともドラフトでは1位指名確実だったし、当然、12球団の全スカウトが甲子園のバックネットに集まっていたけど、双眼鏡で見ていたのは”親”。選手の親が誰と仲がいいのかとか、どんな人とよく話しているのかばかりを注視していたんだ。話題性があったことからも、特に中田に関しては真剣そのもの、それこそスカウトは皆、父親の一挙手一投足まで凝視していた」

■監督との意見相違がドラフトを狂わせる?

 そんな彼らは、球団によって多少異なるものの、おおむね”プロ担当””アマチュア担当”と分かれている。

 プロ担当は、球団間のトレードやトライアウトなどに参加するプロ選手を相手にしているが、球団によっては彼らが独立リーグを回ることもあるという。もちろん、春と秋に行われるキャンプの視察や、開幕すれば1軍の試合のみならず2軍の試合にも足を運び、自分の球団にどこのポジションが足りなくて、どこのポジションが欲しいかなどを検討しながら選手の動向を視察する。

 一方のアマチュア担当は、高校生や大学生、社会人など、ドラフトに直接かかわってくる選手をチェックする役回り。もちろん全国の高校、大学を見て回るのは不可能であり、おおよそ、北海道、東北、関東など、地域によって担当が分かれているケースが多い。だが、「情報化の進んでいるこのご時世、自分の足で探して『これは逸材!』という選手はそういない。有力選手というのは、すでに皆に知れ渡っているもの」と、前出の元球団スカウトは続ける。

「高校、大学時代にプロ級といわれている人はごくわずか。社会人に至っては『即戦力という逸材自体が稀』とも言われている。08年にJR東日本東北からソフトバンクに入団した摂津正投手も、『2~3年使えれば良い』くらいの感覚で獲ったそうだけど、大化けしたタイプ。そもそも、即戦力で使える選手だったら、社会人リーグには進まず、とっくにプロ入りしているからね」

 だが、球団の将来を担う若手を見つけ、入団にこぎ着けたとしても、新たな問題が勃発することがあるという。それが「監督との方針の違い」だと、前出の元スカウトは語る。

「今や監督ですら2~3年契約がザラ。Bクラスになろうものなら、契約期間中でも解雇の文字が飛び交う。だから監督はスカウトに即戦力を求めてくるワケだけど、監督が代わってもスカウトはそのまま残るから、我々にとって5年後、チームがどうなっているかを考えることのほうが重要。例えば今年はヤクルトの青木宣親、西武の中島裕之がメジャー挑戦を表明したけど、数年前からメジャー志向があるのは球団もわかっていたはず。彼らのような主軸がいなくなっても対応できるように、将来、伸びそうな高校生を獲るのがスカウトの戦略なんですよ。ドラフトでいえば、1~2位指名は監督の意向に沿った即戦力を、4~5位指名あたりに数年後の主力になり得る選手をスカウト主導で指名するというのが慣例で、ヤクルトの青木は4位指名、西武の中島は5位指名だった」(同)

 こうした戦略を練るために、スカウトは即戦力が期待できる”大型新人”のところにだけ顔を出すわけにはいかないのだが、各所を回るのは情報収集という点でもメリットがあるという。

「大学や社会人の監督と顔をつないでおくと、掘り出しものを教えてくれることもある。今回、日ハムに7位で指名された早稲田大学ソフトボール部の大嶋匠なんかはその好例だろう。監督自らがプロ志向のある大嶋を日ハムスカウトに紹介したって話だけど、将来性のみならず、話題性も十分だよ」(同)

 もちろん大嶋のような例はレアケース。しかし、大学、社会人の監督にとっても売り込みは重要だと、ある大学野球の関係者は語る。

「今の高校や大学の監督にとっては、甲子園出場や六大学野球制覇同様、『何人の選手をプロに行かせることができたのか』ということが評価につながる。有力校では教職を持たず、学校と特別な契約を交わしている監督がほとんどなので、選手権で結果が出なければ即座にクビ。契約継続のためにも、躍起になって選手を売り込みにかかるんです」(同)

 そこで出てくるのが、前述した、いわゆる球団と学校をつなぐ”ライン”というもの。冒頭の関係者は「監督契約のためにも、プロではとても通用しないような選手を、球団にねじ込むケースだってある」と続けるが、当然球団側も菅野のような逸材が出てきたときに交渉をスムーズに進めるため、彼らを受け入れるメリットはある。

 ここで菅野の話に戻ろう。「原監督の出身校である東海大学と巨人軍の”ライン”つまり”関係”は強固なもの」(同)というのは、もはや球界では常識。そのため、菅野が日ハムに気持ちがなびいても、周囲が止めに入るのは火を見るよりも明らかだったのだ。では、なぜ日ハムは強行指名に走ったのだろうか?

「球団の事情もあるでしょうが、10年、巨人に入団した中央大学の澤村拓一投手のケースが大きい。当時、MAX157キロの豪腕を持つ澤村は、どの球団も欲しがった逸材。だが、ドラフト直前になって『巨人以外ならメジャー』という記事が出た。あれは巨人以外の球団を牽制するためで、本人の口からではなく周囲がマスコミにリークしたというのが定説。菅野の件では、仮に日ハムが原貢氏へ事前に挨拶に出向いたら、沢村同様、その情報はマスコミに流されてしまう。もちろんそんなことがはびこってしまえば、ドラフトはデキレースと化すし、巨人の思うようにさせては球界がダメになるという思いが日ハムにもあったのでしょう」(前出・スポーツ紙デスク)

 菅野選手が選択した1年間の野球浪人というのは、同様の経験をした元巨人軍・江川卓投手が「カンを取り戻すのに3年かかった」と語るように、リスクはあまりに大きい。

 しかし、フロントや周囲の都合に翻弄される選手本人も哀れだが、その陰には、彼らを球団に誘うスカウトたちの、決して表には出てこない努力や駆け引きがあるのだ。
(文/編集部)

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最終更新:2012/01/06 13:47
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