「カネ、女、モノで買収――」腐敗しきった愛知県警 暴排より先に求められる警察の健全化
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
第1位
「スクープ 弘道会『風俗王』に喰われた愛知県警と大物芸能人」(「週刊文春」11月10日号)
第2位
「紅白歌合戦は大混乱必至 芸能界と裏社会」(「AERA」11月14日号)
第3位
「橋下徹『抹殺キャンペーン』の暗黒」(「週刊ポスト」11月18日号)
TPP(環太平洋経済連携協定)参加問題で永田町が大騒ぎになっている。私見だが、情報開示が不十分で拙速過ぎる、よって参加表明は延期すべきだと思う。日本のこれからを左右しかねない消費税増税と併せて、解散総選挙で国民に信を問うがいい。
興味深いのはTPPをめぐる各誌の報道姿勢である。私が見る限り、「週刊朝日」と「週刊新潮」は両論併記で、いいとも悪いとも言いかねているようだ。
「サンデー毎日」と「AERA」は反対のようである。今週の「AERA」で反対派の急先鋒、元経産省出身の中野剛志インタビューで「TPP参加は詐欺だ!」とまで言わせている。
ほとんどこの問題に触れていないのが「週刊文春」「週刊現代」「週刊ポスト」だが、意見を言わないのは反対ではないということか。
先週は「現代」の年金報道に「ノー」を突き付けた「ポスト」が、今週は「新潮」、「文春」の橋下徹の出自報道に対して度が過ぎていると批判している。
両誌は先週号で橋下の父親が同和出身で暴力団組員だったこと、その父親が橋下が小学2年生のときに自殺していることなどを報じているが、こうしたやり方は「集団リンチ」(ポスト)のようで「立派な差別、人権侵害」(同)だとして、橋下が権力者だから許されるという考え方はおかしいと噛みついている。
こうした情報が出てくる背景には当局のリークがあり、彼が当選すると困る大阪市の労組関係者、関西電力を中心とする関西財界の”意思”が背景にあって、民主党や自民党と手を組み橋下当選阻止に回っているのではないかしている。
産経、朝日、毎日も橋下のやり方に批判的で、これは小沢一郎に対してメディアが行ってきた「人物破壊」と同じ構図だと指摘する。「独裁者」「ハシズム」などとそのやり方の強引さが批判される橋下だが、今回の出自暴露キャンペーンはかなり堪えたようである。
「AERA」は「『同和と実父』報道に反論」で、橋下のツイッターによる反論を載せているが、その中でこう言っている。
「今回の報道で俺のことをどう言おうが構わんが、お前らの論法でいけば、俺の子供にまでその血脈は流れるという寸法だ。これは許さん。今の日本のルールの中で、この主張だけは許さん。バカ文春、バカ新潮、反論してこい。俺に不祥事があれば子どもがいても報じろ。俺の生い立ちも報じろ」
今週の「新潮」は相変わらず「瞬発力とご都合主義の扇動者!カメレオン『橋下徹知事』変節の半生」と批判しているが、「文春」はややトーンを下げ、橋下の母親の独白を掲載している。
「現代」は、大阪人100人に緊急アンケートをして、この出自報道がどういう影響を与えたかを調査している。それによると橋下54票、平松邦夫42票で、少し前のような勢いはやや減じたが橋下有利は変わらないとしている。
中で吹田市在住の作家・高村薫がこの報道に対してこう発言している。
「橋下氏は知事在職時代に府議会で『私はいわゆる同和地区で育ちました』と発言しています。首長が発言した以上、そこには政治的な意味が発生します。ですから、週刊誌が彼の出自について指摘すること自体は、なんら問題のあることではないと考えます。橋下氏の反応は過剰ではないでしょうか」
私も同感である。政を行う人間は公人である。プライバシーはかなり制限されるという覚悟がなくて政治家になどなるべきではない。子どもがいるではないかという反駁はわからないでもないが、大方の人間には肉親もいれば妻子もいるのだから、その言い分を認めれば、そうしたことはまったく書けないということになってしまう。
だが、そうはいっても、このケースの場合、私が編集長だったらどうしただろうかと考え込んでしまった。野中広務元衆議院議員は自ら京都府副知事時代に被差別部落出身であることを明らかにしたが、彼の出自が週刊誌や本に取り上げられたのは国政で力を持ってからである。
まだ政治の世界では新人といってもいいほどの彼の出自まで暴くのは、彼の力を評価している証左ではあろうが。この問題については、多くの編集現場で議論があってしかるべきだろう。
これを書いているときニュースが飛び込んできた。
「大相撲の鳴戸(なると)親方(第59代横綱隆の里、本名高谷俊英〈たかや・としひで〉)が7日午前、福岡市内の病院で死去した。59歳だった。日本相撲協会の関係者によると死因は急性呼吸不全とみられるという」(11月7日のasahi.comより)
「新潮」は先週と今週号で鳴戸部屋の隆の山へのインシュリン注射疑惑と、親方や稀勢の里などによる暴力行為や部屋付きの行司からのセクハラで引退に追い込まれた若者による告発記事を掲載している。
こうしたことについて相撲協会は鳴戸親方などに事情を聞いているところだった。こうしたことがストレスとなりトリガーになってしまったのだろうか。「新潮」の記事を読むと、相撲界の浄化はまだまだのようである。
2位には「AERA」のひと味違った芸能界と暴力団についての記事。
田岡一雄・山口組三代目組長が率いた「神戸芸能社」と美空ひばりとのことを持ち出すまでもなく、古くから暴力団と芸能人との結びつきは強かった。
その関係の潮目が変わったのは、後藤忠政・元後藤組組長によれば、山口組と一和会との「山一戦争」(1985年~89年)からだという。
自著『憚りながら』(宝島社)で後藤元組長は、組織犯罪処罰法ができて、ヤクザは社会から「組織犯罪集団」「反社会的勢力」と呼ばれキツくなってきたという。続けてこう書いている。
「だからもう日本では、本気でヤクザを潰そうと思えば、潰せるところまできている。ただ、今すぐなくさないのは警察の思惑に過ぎない」
ヤクザの生殺与奪の権限は警察に握られ、芸能界も同じ問題に直面しているというのだ。
今回の島田紳助引退は吉本興業による警察庁への人身御供だとし、警察庁は今回の暴力団排除条例で国民の間に「暴排」の機運を醸成し、あわせて裏社会に環流する芸能マネーを根絶やしにしたいという考えなのだろう。だが、それが可能なのだろうか、それは脈々と続いてきた日本の文化を潰してしまうことになりはしないかと疑問を呈する。
作家・宮崎学は芸能界やパチンコ、風俗業界などの「グレーゾーンビジネス」からグレーを取り除いてしまってはビジネスとして成り立たないと言う。また、横山やすしや藤山寛美などアナーキーな芸人がいなくなり、日本の笑いの質が劣化してしまった。映画界も任侠映画や『仁義なき戦い』などのヤクザ映画が排除された結果、きれいなモノしか描かなくなって映画も没落していったではないかと言う。
今ヤクザと付き合いのない大手芸能プロダクションはジャニーズ事務所ぐらいだと言われるそうだ。だからNHK『紅白歌合戦』の司会に2年連続で嵐が選ばれた。
今年の『紅白』に誰が選ばれ、誰が落とされるのか。もし人選が例年と変わらないならばNHK会長のメンツに関わるし、暴排への本気度が疑われかねない。だが常連歌手が落選となれば、NHKがヤバイやつだと認定したことになり、その人間の歌手生命が終わってしまうかもしれない。
さあ、どうするのかNHK。暴力団は悪だとほとんどの人が思っている。だが、暴力団とつながりが強いといわれている歌手の松山千春が言うように、大きな問題が残る。
「自分だって暴力団はいなくなったほうがいいと思う。でも、よく考えてみてください。北海道から沖縄まで排除しろ排除しろって。では、どこに排除しろというんですか」
山口組組員だけで3万人いると言われる。その連中を追い込み、彼らが地下に潜って悪さを始めたら、警察の手に負えるのか。「AERA」はこのテーマを続けるつもりのようだ。注目である。
暴力団と警察の癒着構造をえぐりだした「文春」の記事が今週のグランプリ。
安藤隆春前警察庁長官はこういった。
「弘道会の弱体化なくして山口組の弱体化はなく、山口組の弱体化なくして暴力団の弱体化はない」
それほどの力を持つ弘道会の資金源と疑われる「風俗王」が、清原和博、山本譲二、吉幾三などのスポーツ選手や芸能人と親しいだけではなく、捜査員をカネで籠絡していたと告発している。ノンフィクション・ライター・藤吉雅春の骨太な力作である。
この人物、今年4月に弘道会若頭・竹内照明被告とともに詐欺容疑で逮捕された佐藤義徳被告(54)である。
藤吉によれば、佐藤は竹内若頭たちがいつでも利用できるような病院を確保しておくために、大病院の御曹司に有名芸能人を会わせたりして手なずけ、その上、愛知県蟹江署から件の御曹司に感謝状を贈呈させる工作までしたというのだ。
警察にマークされている佐藤が、そんなことをできるのは警察との強い癒着が背景にある。「『名古屋は治外法権』(風俗関係者)と言われるほどの、腐りきった土壌があった」と書いている。
07年10月、佐藤の自宅に愛知県警の家宅捜査が入ったとき、捜査四課の警部の名前が記された850万円の借用書が発見された。
株取引で800万円の損失を出した警察署長は佐藤から2,000万円を提供され、受け取るところを盗撮されていたという。
佐藤は日頃からこう周囲に豪語していたという。
「俺は警察にカネを払っているから道の真ん中を堂々と歩けるんだ」
地元在住のジャーナリスト・成田俊一はこう語っている。
「昔から、どこの警察でも一人や二人の汚れ役は必要とされていた。ヤクザから情報を取るためです。しかし、愛知県警は幹部クラスまでカネ、女、モノで買収されていた。県警と弘道会のつなぎ役として浮上していたのが、佐藤だったのです」
さらに驚くのは、蟹江署の副署長が先の病院の御曹司に感謝状を出していたことを愛知県庁の監査、県警が極秘調査していたのだ。佐藤と副署長との接点は春日井カントリークラブでのゴルフだと判明したが、驚いたことに、県警の幹部クラスに春日井カントリークラブに行かないようにという注意が回っただけで、蟹江署署長は処分なしで定年退職、副署長は科捜研へ異動になっただけだった。
「県警は佐藤に浸食されていた”恥部”に蓋をしたのだ」と批判し、「警察の健全化なくして、暴力団の健全化はない」と結ぶ。
大阪特捜部の腐敗が明るみに出たが、愛知県警の腐敗はもっとひどいようだ。ここまで書かれた愛知県警が、いまのところ抗議や告訴をしたという情報は聞こえてこない。どうする愛知県警。
(文=元木昌彦)
〈謹告〉
日本インターネット報道協会(INAJ)三周年記念講演会のお知らせ
皆様におかれましてはますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
INAJは2008年8月1日に「公衆ネットワーク(インターネット)を利用した報道コンテンツの品質向上と会員相互の交流」を目的として設立されました。
十全ではありませんが、講演会やシンポジウムの開催による啓蒙活動、会員相互間、他団体との交流促進、公衆ネットワーク技術、コンテンツの品質向上に関する研究などを行ってきました。
設立から3年余りが経ち、首相や閣僚の記者会見への参加など、インターネット・メディアの活動の場も様々に広がってきていることはご承知のことと存じます。
そこでこの度、INAJの会員の皆様、INAJを支援していただいているユーザーの皆様をご招待して、3周年記念の講演会を催したいと考えました。
講演していただくのはインターネット・メディアについての第一人者である佐々木俊尚さんです。
ふるってご参加下さるようお願い申し上げます。
事務局長 元木昌彦
●日時 11月16日〔水〕 17:30開場 18:00開演~19:30終了
●場所 アルカディア市ヶ谷(私学会館)6F「霧島」(予定)
http://www.arcadia-jp.org/top.htm
●入場 無料
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
いろいろ悪名高いです。
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