【東京国際アニメ祭2011秋】革命的アニメ『TIGER & BUNNY』大ブレークの種明かし
#アニメ
10月27日・28日の2日間にわたって開催された「東京国際アニメ祭2011秋」(主催:経済産業省/一般社団法人日本動画協会、後援:東京都)のレポート第2弾、28日の模様をお届けしよう。
午前中のシンポジウムは「『TIGER & BUNNY』に見るTVアニメの新たな取り組み」。語り手はサンライズの宮河恭夫専務取締役である。ガンダム関連の出版物に度々プロジェクトの仕掛け人として登場する宮河専務、『タイバニ』もグイグイ引っ張っていたが、前評判の低さには若干の不安を抱えていたようだ。大量宣伝をせず、ファンの口コミで拡がった今回のタイバニ人気から得られた知見を、今後の作品におけるファン獲得にも生かせるかと尋ねられると、こう答えた。
「放送前にほとんど宣伝もしていないし話題にもなっていなかったではないか、という質問だと思うんですが、まさにおっしゃる通りで、プレゼンをしたときに『これはイケる』と言ってくれた人はほとんどいませんでした」
MBSの単発深夜、TOKYO MXとBS11でどれだけカバーできるのかといった懐疑的な声が多かったと宮河専務は振り返る。
「原作もなく完全オリジナルということもあり、ネットなどでまったく話題にならなかったので、これはやばいかなと思っていました。しかし、なんとなく口コミで拡がっていくんだろうなという予感はありました。正直に言って、それは狙っていました」
しかし、だからといって露出を抑えたというわけではないと苦笑。これを次の作品でやるかというと、やはり話題になった方がいい、普通に認知されるようにしたい、という。
「離陸は難産だった」と宮河専務も認める出だし低調の『タイバニ』が、なぜ急上昇したのか。いわばその仕込んだ種の種明かしがこのシンポジウムだった。
『タイバニ』といえば、登場キャラクター「ロックバイソン」の実況における呼び方が「牛角さん」で固定されるほどの効果をもたらした番組内スポンサー広告が特徴のひとつだが、出稿希望が殺到したそのわけは、昨秋11月24日の日本経済新聞朝刊に掲出された全国15段カラー広告。「キャラクタープレイスメント協賛社、大募集!!」と銘打ち、派手に行った。現場担当者が上司のおじさんたちを説得しやすいだろう、という読みである。計42種類のパーツに掲出可能な枠が設けられ、個人から大企業まで数十件の問い合わせがあった。
最終的に17社が8人のヒーローに協賛、ペプシが登場キャラクター「ブルーローズ」を用いたCFを制作するに到ったのはご存じの通りである。F1やサッカーや花火と同じ感覚の掲出スタイルが、時代にフィットしたのかもしれない。
問題はこれにツッコミを入れる環境があるかどうか。その点で、Twitterのタイムラインが画面右に流れるUSTREAMをMBS最速で同時ネット配信の舞台に選んだ決断が大きかった。初回のUST総視聴者(ユニークユーザー)数は2,955人。宮河専務も「やはりこのくらいか」と思ったらしいが、第2話では7,903人と急増。第9話で4万人台に突入して4~5万人台と高値安定すると、最終25話では9万3,490人に達した。
東日本大震災後の絆を求める視聴者の心理とも重なり、ファンが一体感を獲得、高揚したのだろうという分析がなされている。
おそらくその通りで、今回の場合は「自分が見つけた、自分が支持する作品」を同じ感覚で共有することの愉悦があったはず。しかも、メジャーになったから離れるということではなく、UST視聴数の伸びを歓迎するTwitterのPostを見ても分かるように、作品の成功≒自分の勝利という、まさにサポーター心理があり、口コミで確かな人気を獲得、土台づくりがうまくいったことが、成功につながったのではないかと思われる。
途中からはTwitterのHOTワードを独占、ソーシャルネットワーク全盛時代にマッチした旬の作品となった。
現在はネットからライブに「共有」の舞台を移しつつある。最終回第25話のライブビューイングは本会場4,800円、ライブビューイング3,000円の有料制だったにもかかわらず、全国85スクリーンで2万3,000人を動員した。地上波3.8%の視聴率とUST配信の9万3,490人を足すと、ひと晩にどれだけ多くのファンが、しかも同時に『タイバニ』を注視していたのかがわかる。11月13日に神奈川県民ホールでおこなわれるライブイベントの動員は本会場4,400人、ライブビューイング3万人を見込んでいる。
普段アニメを見ないドラマ派の視聴者にまで裾野を拡げたいという企画意図は、十分に達成されたようだ。
午後のシンポジウムは「スマートフォンが変える動画の世界」。モバイル動画配信サービス大手、ビデオマーケットの高橋利樹代表取締役が、具体的なスマートフォンの定義から、順を追って動画再生環境の解説を行った。
同社はプレミアムエンコードという技術を有しており、不安定な無線ネットワーク、低ビットレート下でも鮮明な映像を出力する。厳しい環境でも低容量で動画を配信しうることで、モバイル動画配信を現実的なものにしていることになる。
実際に動画配信となる端末の中心はガラケーからスマートフォンに移っている。具体的にはiPhoneやAndroidか。予測では2011年のフィーチャーフォンとスマートフォンの出荷比率はほぼ半々とみられていたが(MM総研調べ)、NTT DoCoMo、au、SoftBank各社の冬春発売モデル内での比率はスマートフォン73%フィーチャーフォン27%となっており、今後はスマートフォンを前提として考えていかなくてはならない。
日本の全世帯のうち3割が単身世帯といわれている。しかし、非単身の複数世帯でも核家族化が進み、3人家族が増えているようだ(平均世帯人数3.12、平成22年国勢調査)。テレビと携帯電話の保有台数はともに概ねひとりにつき一台だという(内閣府消費動向調査、平成23年3月現在)。
では、購入サイクル、保有期間はどうか。テレビは家電化が進み、壊れるまでは買い換えないことから、9.3年という長期保有商品となっている。一方、携帯電話は3.6年。10年単位で考えた場合、テレビよりも携帯電話のほうが市場規模が大きい。テレビ向けの液晶をつくっていた工場が生産品目を携帯電話向けのちいさな液晶ディスプレーに切り替えるなど、フィーチャーフォンからスマートフォンという携帯電話内での変遷だけでなく、テレビから携帯電話という大きな変化があることもわかる。まさしくスマートフォンが動画再生端末の主流になろうとしているのだ(モバイルデータトラフィックは、2,010年の3,004TB/月から、2,015年には101,900TB/月に達すると予想されている、米シスコ社)。
さらに、携帯端末はCPUの集積度や処理能力が一年単位で大幅に向上、また通信環境が太くなり、タブレットも登場して転送容量や表示サイズそのものが大きくなってきていることもあって、いわばテレビの優位性を食い、今後はモバイル端末への移行がますます進んでいくのではないか──という論調だった。
樋口真嗣監督が「寝転がって動画を見るときはiPadで見る」と以前に発言していたが、就寝時にスマートフォンで動画を見ることが当たり前になりつつある現状では、つくり手もスマートフォンが作品を届けるためのチャネルであると自覚し、企画や制作に生かしていく必要があるのではないだろうか。
『TIGER & BUNNY』と合わせ、変わりつつある環境に適応して作品性や流通のスキームを考案するきっかけになる内容のシンポジウムだった。
午後から夕方にかけ、カンファレンス会場では「ご当地アニメの地域振興効果」「声優・音声製作の国際化」と題したカンファレンスが続けて行なわれた。
アニメによる地域振興、アニメの国際化または日本アニメの海外進出、音響・音楽・音声に対する理解は、今年の東京国際アニメ祭でクローズアップされているところ。
「ご当地アニメの地域振興効果」では『耳をすませば』の聖蹟桜ヶ丘、『サマーウォーズ』の上田、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』の秩父が、各々町興しの具体例を紹介した。それらの紹介だけで時間を消化してしまい議論には至らなかったが、たまさか聖地に選ばれた側がどういうリアクションを起こすか、あるいはフィルムコミッションの類がどう誘致するかという点での話し合いがもう少し多いとよかったかもしれない。
「声優・音声製作の国際化」は、日本で声優をめざし、あるいは既にプロとしての活動を始めている日本周辺国家出身の声優または声優志望者によるトークセッション的なカンファレンス。ネイティブ並に日本語を操るロシア人、中国人、台湾系アメリカ人、韓国人のバイリンガル、トライリンガルは主に日本アニメへの情熱によって衝き動かされ、日本語を学んだ経緯の持ち主ばかり。日本代表として参加した山口理恵も関西圏出身とあって関東との言葉の違いに苦心した時期があり、共通の心的ベースで体験談を語る様子はトークとして面白かった。
前者の町興しと同じく紹介が大半を占め、異国出身の声優の力をどう生かしていくかという議論としては深まらなかったが、関心を喚起する効果はあったように思う。
今年も地味なシンポジウムやカンファレンスに見るべきものがある催しだった。
(取材・文・写真=後藤勝)
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