闇に生きる正義――探偵事務所に取材したノンフィクション『依頼人を救え』
#本
探偵というと、どのような仕事を思い描くだろうか。アニメ『名探偵コナン』のように、IQ200の天才が殺人事件を推理し犯行を暴く、なんて華やかなイメージがあるが、実際の探偵稼業は、浮気調査が仕事の大方を占め、あとは人物の素行調査、所在調査、ストーカー被害対策およびボディーガードなど、地味で根気のいる作業ばかりだ。義理・人情で受ける仕事もあり、それほど儲かるわけではないという。
男たちは何故、そのような過酷な仕事を選び、続けているのか。『依頼人を救え』(幻冬舎ルネッサンス)は、裏社会を追い続けてきたノンフィクション作家・丸山佑介氏が、全国12カ所の支部を持つGK探偵事務所に取材し、その仕事現場を描いたノンフィクション小説だ。全9章にわたって構成され、事件の流れはもちろん、報酬の金額や、盗聴・盗撮の手法、張り込みの鉄則、ゴミを漁って情報を収集する「ガーボロジー」など、探偵がどのように調査を行っているかが仔細に記されている。すべて探偵の一人称で語られており、探偵の感情の動きも含め、実際に現場にいるような臨場感を楽しめる。
仕事の内容は依頼人により大きく異なり、どのケースも一筋縄ではいかない。特に8章「依頼人をストーカー&ヤミ金から守り通せ」は、複数の事情が絡み合い、複雑な案件となった。高木さん(仮名)の依頼は、婚約者がストーカー被害に遭っており、婚約者の女性をストーカーから守ってほしい、というもの。女性を警護していると、イカつい熊のような風貌の男が付けてきている。しかし、どうもストーカーの動きではない。調査を進めると、熊男は高木さんが過去に借金をしたヤミ金業者であることが分かった。そこから別件の依頼として、高木さんをヤミ金業者から守ることになり、警護を続けた末、業者の襲撃から守ることに成功。そしてストーカー事件の方も、調査とプロファイリングの結果、高木氏の浮気を疑った婚約者の自作自演であることが判明した。持ち込まれるストーカー事件の実害は30%ほどで、妄想や自演も少なくないのだという。
現在、日本での年間失踪者・行方不明者は10万人を超える。また、不倫や強要、恐喝、ストーカー被害にカルト宗教など、警察が捜査できない事件は山ほど存在する。そんな世間の闇を調査し、真実を究明するのが探偵の仕事。必ずしもきれいな仕事ではないが、明るい場所に出てこない事件にこそ、社会の本質が隠れている。そんなことを思わせる一冊だ。
(文=平野遼)
・まるやま・ゆうすけ
1977年、宮城県生まれ。ノンフィクション作家。大学院まで考古学を専攻するが、まったく金にならないことに嫌気がさし、研究者コースから離脱。その後、考古学者崩れジャーナリストとしてグレーゾーンに生きるアウトローたちとの交流を通じ、裏社会を観察し続けている。現在、アンダーグラウンドビジネス、都市伝説、歴史など幅広いジャンルの取材・執筆活動をこなしている。社会に埋もれているドラマチックな事実を掘り起こすために日々奔走中。著書に『図解 裏社会のカラクリ』(彩図社)、『男呑み』(東京書籍)などのほか丸山ゴンザレスのペンネームで旅行記がある。
・GK探偵事務所
1990年設立。代表 伊藤博重(いとう・ひろしげ)
1967年、東京都生まれ。失踪人捜索専門の私立探偵。元祖人探しのテレビ番組『あなたに逢いたい!』(テレビ朝日系)など数々の捜索を担当し、新潮社発刊のノンフィクション『追跡者』(著 福本博文)のモデルにもなっている。現在全国12カ所に支部があり、人探しをはじめ、各種調査、警備・身辺警護を業務とする。
意外と地味なお仕事です。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事