ユーモアとリアルな貧乏レシピが絶妙なバランスで混在『正しい貧乏青年の食卓』
#本
今はなき伝説のカルチャー誌「BURST」(コアマガジン)の連載コーナーをまとめて単行本化した『正しい貧乏青年の食卓』(ポット出版)。日頃我々は飽食の時代を生きていると言われているが、それでも金がなければ食費を切り詰めなければならない。牛丼屋に行く300円すらポケットに入ってなかったら、その時こそ、この本の出番だ。一冊丸丸、創意工夫に満ちた「オリジナル低コストめし」のレシピがビッチリと詰まっている。
例えば、パスタにスナック菓子の「カール」チーズ味を混ぜた「カール・ボナーラ」。これは「粉チーズを買うのは高いので、茹でたパスタにカールをまぶすことで、チーズ感を出そう」という努力から生まれたもの。本文によると、カールに口の中の水分を奪われないように注意する必要があるそうだが、想像する限り、味はなかなかイケそうではある。
「ワンタンしゃぶしゃぶ」は名前だけ見ると普通においしそうだが、必要なのはワンタンの皮のみ。しかし、これが意外とバカにできない。作法はしゃぶしゃぶと全く同じだし、そのままゴマだれやポン酢につけて味わうことも可能。白いご飯にもきっと合うに違いない。要は、肉とワンタンの皮の違いにだけ目をつぶれば良いだけの話なのだ。心頭滅却すれば火もまた涼し、人間ハングリーになれば何だって大丈夫になるものだ。多分……。
「もやしで一週間しのぐ方法」も興味深い。もやしは安くて栄養価が高いのにもかかわらず、「炒め」だけで消費するには役不足だということで、和洋中、もやしのフルコースが紹介されている。例えばもやしを片栗粉と一緒に炒めてあんかけ風にする「もやし中華」、もやしをホイルに包んで加熱する「燃やしもやし」、もやしをカレールーで煮込んだ「もやしライス」などなど。料理の材料費より、本のパルプやインク代の方が高そうなのがミソだ。
とにかくこれらの料理は本当にごく一部であり、実際に掲載されているメニューははるかに豊富で驚かされる。
思い返してみると「BURST」誌で連載されていた90年代は、今よりも若干世相に余裕があり、このコーナー自体ユーモラスな読み物という印象を放っていたものだった。しかし世の中がどんどん不景気になり、もう「ヤバイんじゃないか?」という今のタイミングで単行本化されてみると、あら不思議。非常に実用性の高い料理本になっていることに気付かされる。
つまりこの本は、その時の景気や世相次第でカラっと笑える「面白い本」にもなりうるし、実用性の高い「貧乏料理のリアルレシピ」にも変身するし、要はカメレオンみたいな摩訶不思議な一冊と言えるかもしれない。
ついでに私事で恐縮だが今財布の中に小銭しかないので、ここだけの話、今夜辺り早速この本を参考にディナーを味わう予定である。
(文=みんみん須藤)
●ライノ曽木
1967年兵庫県生まれ。本名・曽木幹太。法政大学文学部卒業後、出版社勤務を経て写真家、コラムニスト。
●みんみん須藤(みんみん・すどう)
1974年6月14日、埼玉県大宮市生まれ。物書き。音楽をはじめ、大衆芸能や庶民文化に関する原稿を書いている。雑誌「TV Bros.」(東京ニュース通信社)ほかで連載中。
貧乏飯、マンセー!
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