「なぜ”24時間ニュース番組”がない?」デーブ・スペクターが日本の震災報道を斬る!
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東日本大震災から3カ月。この間、地震と津波、そして原発事故という三重苦をさまざまな形で報じてきた日本のテレビメディア。衝撃的な映像とともに多くの情報を視聴者のもとへ届けてきたが、その内容には懐疑的な声も少なくない。一部では海外メディアの報道姿勢と比較しながら、政府の”大本営発表”をタレ流ししてきたと指摘する声も多い。そこで、日米両国のテレビ事情に詳しいデーブ・スペクター氏に、災害報道における日米の違いや、制作サイドから見たテレビの問題点を語ってもらった。(聞き手=浮島さとし/フリーライター)
――東日本大震災から3カ月が経ちました。デーブさんも連日テレビに出演されていたわけですが、当時のスタジオの空気はいかがでしたか?
デーブ氏(以下、デーブ) 経験したことがない異様な雰囲気でしたよね。スタッフもみんな寝てないし、判断力も落ちてたし、疲労でイライラしてて。それでいて、原発の危険さをあおってはいけないというようなムードもありましたし。何をしゃべっていいのか、よくないのか。そんな空気が充満してましたよね。
――スタッフから「こういう発言はしないように」という指示はあったのですか。
デーブ それはなかった。ただ、重たい空気はありましたよね。常識に照らして暴走した発言はしないようにって、みんなピリピリしてました。山本太郎みたいな人もいたわけなんですけど。
――スポンサーサイドからは何か圧力があったとかは?
デーブ 無いってことになっているんですけどね。直接の圧力がなくても、東電が大スポンサーなんで配慮はあったとしか思えないけど。気を使いすぎだとボクは思いますね。
――海外メディアは震災発生当初から原発の危険性を遠慮なく報じていたようですが。
デーブ 日本よりもっと扇情的にやってましたね。早くから「メルトダウンはしてるかも」とか。今思えばその騒ぎ方が正しかったわけですけど。日本は伝える側も放射能や原発のことを理解できていなかったでしょう、もちろんボクらコメンテーターも。分かるのは津波の被害とか瓦礫のこと。だからそれを流すしかない。だって、専門家だって分かってないんだから。
――アメリカでも自然災害は多いわけですが、日米で報じ方に違いはありますか。
デーブ 文化の違いだと思いますが、たとえば日本人って生まれ育った土地へのこだわりが強いでしょう。とても不便な面があるけれど自然が豊かな山間部の土地に何世代も住んで、そういう生き方をリスペクトする文化がある。そこで土砂災害とかあっても、間違っても「そんなところに住んでいるからだ」なんて言われない。でも、アメリカでは結構言うんですよ。言われる側も、それをある程度承知してるというかね。トレーラーハウスに住んでる人は、ハリケーンで飛ばされるリスクを承知して生活をしてますからね。
――土地に対する信仰心がまるで違うんでしょうね。日本は森羅万象に神が宿る自然崇拝の国なんで。アメリカ人はもっと合理的に引っ越しちゃうわけですか。
デーブ そう、合理的。1990年代にフロリダにハリケーン「アンドリュー」が来たのですが、もともとフロリダはハリケーンが多くて、あまりに多いから「もう住んでられない」って、あの時は10万人くらいが移住したんです。日本では埼玉の夫婦が定年後は沖縄に住もうとか、あんまり思わないですよね。田舎暮らしって一部だし。でもアメリカだと、寒い土地の人が老後にアリゾナとかへ抵抗なく移住してる。どちらがいいという問題じゃなくて、違いですよね。それによって報じ方も違ってくるということで。
――テレビ業界のプロとして伺いますが、今回の震災報道の中で「テレビ」と「活字」の違いをどうお感じになりましたか。
デーブ これはね、ものすごく感じました。まず、テレビというのは映像の必要性が先行するでしょ、『朝生』(テレビ朝日系)を除いて。どうしてもいい画を求める。これは仕方ない。そういう縛りの中で、今回のように内容が専門的で、暴走するとクレームが来るという状況だと、もう無難に収めるしかないんですよね。批判精神なんかゼロ。でも、新聞にはすごく細かくて具体的で批判的な情報がたくさんあったでしょ。週刊誌はさらに細かくて、スクープもあったし。つまり、テレビで伝えきれない情報が紙の上にたくさんあった。でも、地上波を責めるのも酷なんですよ。だって、専門家にコメントもらおうにも「尺」がないんですよ、2、3分しか。伝えきれない。
――アメリカとの違いがあるとすれば、一番は何ですか。
デーブ 一番の違いは、日本に24時間ニュース番組がないってこと。これにつきますよ。CNNとかFOXとかがない。全然ない。一つもない。ゆっくりニュースを放送する局が一個もない。アメリカで今回みたいな災害が起きたら、地上波は最初の数時間は流すけど、あとはニュース専門局に完全にシフトするんです。視聴者はニュースをそこで見る。
――日本もBSやCSでそれに近い形のものはありませんか。
デーブ だってあれ、本気じゃないでしょ。同じニュースを繰り返し流してるだけだし、自前で取材したわけじゃない。しいて言えば、『BSフジLIVE PRIME NEWS』が近いかな。一つのテーマを2時間じっくりやってる。あれなら新聞情報にもじっくり触れられるけどね。
――アメリカ人はネットでも結構ニュースを読んでますよね。
デーブ めちゃめちゃ読みます。アメリカのテレビだってすべては伝えきれないけど、新聞系のサイトは相当読まれてますよ。ネットから取得する情報がものすごく多いんです。日本人は「Yahoo! JAPAN」しか見ないでしょ。あれは、要約されたニュースがトピックスとして並んでいて、見出しみたいなものですよね。一つの情報を掘り下げて読むのとは違うから。
――日本にニュース専門局ができない理由は、国民がニュースを見ない、読まないということに加えて、一番はやっぱりお金ですかね。スポンサードする企業がない。
デーブ そう、お金はものすごくかかる。通信社から買わずに独自で取材するようになったら、もう大変ですよ。この不景気な時代に視聴率が取れないニュース専門局にお金を出そうなんて企業は、今の日本にないでしょう。やれるとしたらNHKだろうけど、そしたら地上波を見なくなるからね。NHKの視聴率はニュースが支えてるから。地震があったらとりあえずテレビはNHKをつけるとかね。そのNHKが専門局を始めたら、視聴者はそっちに流れるだろうから。だから、共食いになっちゃうんですよ。
――民放はともかく、NHKは共食いしてでもやるべきかもしれませんけどね。
デーブ だと思いますけどね。これだけテレビ文化が成熟してる国なのに、24時間ニュース局がないなんて不思議なんです。ラジオでさえやってないんだから。ラジオなんて、一社提供の持ち込み企画とか、事務所のお荷物のタレントに番組を持たせたりとか、古いやり方をずっとやっている。流動性がないんだよね。ラジオでやれないんだから、テレビだと100年かかるかもね。
――メディアと言えば、今やTwitterも一つのメディアと言える時代ですが、デーブさんの震災直後のつぶやきが大反響でした。「低気圧にお願いです。被災者ではなく、原発を冷やしてください。ボクも一所懸命、寒さを原子炉に送りますんで」とか、「日本で略奪があるのは愛だけですからね、山路さん」とか(笑)。日本全体が重苦しい空気の中で、デーブさん流のギャグで癒やされたという日本人は多かったようです。
デーブ クールギャグと呼んでるんですけどね(笑)。あれはびっくりしました、反響がすごくて。普通にいつものようにつぶやいてただけなんですけど。あのころはまだ「冗談言っちゃいけない」みたいな空気で。日本全体が首を絞められてるような、なんていうのかな……。
――閉塞感のような。
デーブ そうそう、閉塞感。それがあったでしょ。みんな笑いたかったのに笑えなかった。そこにニーズがあったんでしょうかね。
――それを一冊にまとめた『いつも心にクールギャグを』(幻冬舎)が発売中ですが。本を出されるのが10年ぶりくらいとのことで、意外ですね。
デーブ ボクは基本的に本は出さない主義なんです。だって、さほど伝えることもないのに、タレントだから本を出すというのも、ちょっと抵抗があるというか。今回はちょっと特別で、社会現象としてあまりに反響が大きかったし、残しておこうというのもありまして。ま、脱力して気楽に読んで、癒やされていただけたらうれしいです。
●でーぶ・すぺくたー
アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ出身。日本を拠点に活動する米国人テレビプロデューサー・放送作家・コメンテーター。1983年、米国ABC放送の番組プロデューサーとして来日。ポイントをおさえた的確なコメント、鋭い批評は多方面から好評を博し、テレビ出演の他、全国各地の講演や執筆活動等で多忙な毎日を送っている。2009年「オリコン好きなコメンテーターランキング」第1位獲得。話題のTwitterは「ツイナビ」アカウントランキングで『総合TOP100』『有名人・芸能人』『エンタメ』各部門で第1位(2011年3月22日ツイナビ調べ)。
定価1,260円/幻冬舎刊/好評発売中。
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