「頑張る、は粋じゃない」杉浦日向子の名言集『憩う言葉』『粋に暮らす言葉』
#本
2005年7月に杉浦日向子さんが亡くなってから6年がたつ。漫画家でエッセースト、江戸風俗研究、時代考証の第一人者として知られ、NHK『コメディーお江戸でござる』の時代考証なども担当していた。1993年に”隠居宣言”をし、漫画家を引退した杉浦さんだが、実は当時から免疫系の病気を患っていたという。その突然の訃報に、多くの作家、漫画家が悼む言葉を寄せた。
その杉浦さんの著書から印象的な言葉を集めたのが『憩う言葉』『粋に暮らす言葉』(イースト・プレス)の2冊。杉浦さんのエッセーから抜粋した文章に加え、マンガの1コマ、個人的なポートレートも多く掲載されている。実兄の鈴木雅也氏が監修を務める、装丁も豪華な愛蔵版だ。
気取らず、頑張らず、気ままにその日暮らし。江戸人の考え方は、現代人と正反対だと言える。265年続いた封建制という時代状況の中で、江戸人の獲得した粋の思想、憩いのライフスタイルとはどんなものだったのか、杉浦さんの眼を借りてちょっぴりのぞき見ることができる。
「憩う、とはただのんべんだらりと時を過ごすことではない。余分なものをそぎおとして、素になるときこそが、憩いであろう」(『憩う言葉』本文より)
「江戸では、頑張るは我を張る、無理を通すという否定的な意味合いで、粋じゃなかった。持って生まれた資質を見極め、浮き沈みしながらも、日々を積み重ねていくことが人生だと思っていたようです」(『粋に暮らす言葉』本文より)
あちこちで「頑張ろう」と聞こえる昨今、「頑張らないでいきましょう」と言う人はなかなかいない。低生産・低消費・低成長の長期安定社会であった江戸時代の思想は、案外、いまの日本人に合っているのかもしれない。
(文=平野遼)
●すぎうら・ひなこ
1958年11月30日、東京都生まれ。稲垣史生氏に時代考証を学び、80年、「ガロ」で漫画家としてデビューする。84年、『合葬』で日本漫画家協会優秀賞を受賞。88年、『風流江戸雀』で文藝春秋漫画賞受賞。漫画作品としては、『杉浦日向子全集』(筑摩書房、全8巻『二つ枕』『合葬』『百日紅(上・下)』『東のエデン』『風流江戸雀』『百物語(上・下)』収録)などがある。93年に漫画家引退を宣言し、「隠居生活」をスタート。自らのライフワークである江戸風俗研究家として活動。NHK総合テレビ『コメディーお江戸でござる』では江戸の歴史、風習についての解説コーナーを足かけ10年務めた。晩年は文筆業に専念し、『江戸へようこそ』(筑摩書房)『江戸アルキ帖』(新潮社)『ぶらり江戸学』(マドラ出版)など、多くの作品を遺した。05年7月22日、下咽頭がんのため46歳で逝去。
のんびり、いきましょう。
頑張らないで、いきましょう。
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