「週刊現代」が素人目線で追求した、孫正義義援金100億の行方
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
第1位
「いつ届く孫正義の『義援金100億円』」(「週刊現代」5月28日号)
第2位
「内橋克人が警告『放射能が招くスロー・デス』」(「週刊朝日」5月27日号)
第3位
「世界SEX二大文明歴訪PART1 ローマ人のSEX」(「週刊ポスト」5月27日号)
よく知られていることかもしれないが、テレビのワイドショーは週刊誌をお手本に始まった。ワイドショー草創期には、スタッフが週刊誌をごっそり買い込んできて、それをみんなで見ながら企画を考えたと、当時のプロデューサーから聞かされた。
1冊に政治・経済はもとより、小説からヘアヌードまである”幕の内弁当”スタイルの日本の週刊誌は、世界でも珍しい。
新聞・テレビがやらないことをやるのが週刊誌ではあるが、面白くなくては週刊誌ではない。東日本大震災以降、エンタメ系にこれはと思うものがなかったが、今号の「ポスト」の「ローマ人のSEX」にはちょっぴり驚きがある。PART2は「中国人の性生活」であるが、こちらは言い古されている。
リードで、すべてのSEXはローマに通ずと書いてあるが、『ローマ人の物語』塩野七生もビックリかもしれない。
ローマ人は風呂好きで有名だが、古代ポンペイ市には6つの公衆浴場があり、そこは混浴だったそうだ。
脱衣所には木製の木箱が並んでいて、目印として後ろに番号と絵が描かれていたが、絵のテーマはSEXだった。騎乗位で交わる男女や変則的な体位を楽しむ乱交の画もあったという。
木村凌二東大教授は、ローマ市民と江戸時代の町民との共通点は、無類の風呂好きだったことだという。
そこから「ポスト」は「穿った見方だが」と注釈をつけて、こう大胆な推理をする。両都市ともにオーラルセックスが盛んだったのは、清潔好きが影響したのではないか、と。ポンペイでは「クンニリングスの絵」が発見されている。
度外れたサディズムと放恣、無節操な性行動で有名だった3代皇帝カリギュラ。暴君ネロは母子相姦から、お気に入りの少年に性転換させ、自分の”妻”として輿入れさせたという。
ポンペイは18世紀から発掘が進み、町並みがソックリ再現されているが、至る所に落書きが残っていて、そこには赤裸々なSEXへの思いの丈が描かれている。
「男根が命じるのだ、愛せよと」「来た、やった、帰った」「射精する」などなど。
ほかにもローマ人のSEXを題材にした映画『サテリコン』や『カリギュラ』について。ローマ屈指の恋愛ハウツー本『アルス・アマトリア』。人気漫画家『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリ氏インタビューなど、しばしの間、浮き世の憂さを忘れるにはいい読み物である。
第2位は「朝日」。やや硬派だが、一読をお勧めしたい経済評論家・内橋克人氏のインタビュー(表紙の綾瀬はるかもいいぞ!)。
氏は、菅直人首相が立ち上げた東日本大震災の復興構想に疑義を呈する。五百旗頭(いおきべ)真議長が「創造的復興」を掲げているが、これは阪神大震災の時にもよく使われた言葉だと指摘し、枝野幸男官房長官も「阪神・淡路大震災の経験を生かしてほしい」と言っているが、阪神大震災は成功モデルではないと言い切る。
作家の小田実氏らと、被災者の生活基盤回復を助ける市民・議員立法を実現するための運動に加わり、1998年5月、最高100万円(当時)を支給する被災者生活再建支援法に結び付いたが、それまで国には、そうした「概念」さえもなかったという。
その後この法律の改正があり、最高300万円まで出るようになったが、使い道が限られ、給付を受けるのも容易ではなかった。
そのため二重ローンに苦しむ人が数多く生まれ、いまは貧困ビジネスと言われる高金利のシステム金融が始まった。災害復興住宅では孤独死や独居死が相次ぎ、いまでも被災の大きかった地域の自殺率は突出して多いのである。
また、震災1カ月後に神戸市が出してきた都市計画事業は、震災前に住民からの反対や非難で難航していたもので、市はこのときとばかり一挙に実現しようとしたため、西須磨まちづくり会議は「住民にとっては第二の大災害」だったと記録している。
建てられたのは無機質な高層ビルばかりで、「本当に大切な路地などが消えました。もはや『呼吸する町』ではなくなってしまいました」、「阪神大震災の復興は、肝心の『人間復興』において大いなる悔いを残しました。こういうやり方のどこが、今回の震災復興に生かせるのか。不思議でなりません」と憤る。
東日本大震災は、自然災害と犯罪的人災という性質の違う二つの災害があり、復興が大切なことは言うまでもないが、そのことと原発をここまでに至らせた国・行政・電力会社の責任を糾弾する作業は、厳しく峻別しなければならないとしている。
最後に、「社会、政治、権力の構造を根本から変えなければ、本当の意味での被災地の『人間復興』は期待できないと思います」と結ぶ。
放射能の深刻な数値を隠ぺいする政府や保安院。福島第一原発の危機的状況を隠し続けて恥じない東電首脳。この連中が考えているのは自己保身だけである。
先日、私の友人が福島県へ行って市長や村長に会ってきた。彼が開発した放射能を測定し、長期に累積データ化できる精巧なシステムを寄贈するためである。
中でも福島市の市長は喜んでくれたという。なぜなら、いま出されているモニタリングポストの放射線数値では、福島市は避難するほど高くはないが、信用できないというのだ。さまざまなところが計測している放射線量は、かなり高いからである。どちらを信じればいいのか悩んでいたようだ。これがあれば自分たちで計測・累積することができる。だが、もし避難しなければならないほど数値が高かった場合、約30万人もいる福島市民は、どうすればいいのか。市長はどういう決断を下すのか。新たに深刻な悩みが市民を襲ってくるのだ。
今週の第1位は「現代」の孫正義に関する記事。週刊誌の役割の一つは、読者の素朴な疑問に答えることである。これは、そのお手本のような記事だ。
ソフトバンクの孫正義社長が「被災者に100億円の義援金を寄付する」と言ったのは4月3日。それから1カ月半以上経過するが、あのおカネはどこへ行ったのでしょうか?
いくら資産が日本人トップ、約6,800億円の孫社長でも、100億のカネをすぐ右から左へ動かせるとは思わないが、そのうちの2~30億円は支払い済みなのではないか、そう思うのが由緒正しい貧乏人の考えることである。
ユニクロの柳井社長は3月23日に10億円、楽天の三木谷社長は4月11日に10億円の送金を済ませている。
そこで、貧乏人の味方「現代」が、方々尋ね歩いてくれた。発表した段階で、孫社長が言っていた「日本赤十字」「赤い羽根共同募金」に聞くと、赤十字は5月6日時点で総額1,700億円集まったが、100億円寄付した事実はないようだ。赤い羽根も同じ。
その他、日本ユニセフもNGO・JENも「ノー」だという。日本一のおカネ持ちに二言はないだろうと、各地の自治体にも問い合わせるが、これも同じ。
どうやら、ソフトバンク側の「方針が決まっていない」ためだということが分かってくる。
寄付を発表したこともあって日経BPの企業好感度調査で第1位になったソフトバンクだが、もたもたしていると嫌われ度第1位になっちゃうよ。
それならばとソフトバンク広報室へ直接聞くと、やはりまだ1円も寄付してないというのだ。
イメージアップに利用したのではないかというきつ~い質問への答えが面白い。
「時間がなくて本人に確認できませんでしたが、察するにそういうことはなく、孫の被災地を思う善意の気持ちからだと思っています」
これって広報的返答じゃないね。孫さんに叱られるぞ。
孫氏と親交のある証券アナリストは、彼はキャッシュではなくソフトバンクの株を売ってカネをつくろうと思い、少しでも損をしないように時期を見ていたのだが、このところの値下がり基調で目論見が外れたのではないかと見ている。
100億円を捻出するために孫氏が大量に株を売り、株価が下落するのではと懸念した個人投資家が、売りに走ったというのだ。
確かに、寄付発言の翌日、4月4日の終値が3,255円で、5月12日の終値は3,065円。190円の値下がりだ。
その他の説では、そもそもハナから出す気がなかったのではないかという、大胆な説まであるという。ソフトバンクは元々業績はいいが、有利子負債が2兆円超ある。これまで自転車操業でやってきたが、一つ壊れればガラガラ崩れる会社だと言われてきたから、寄付は世論を味方にするための見せガネのようなものではないかというのである。
いくら何でも世界の孫さんに失礼だろうと思うが、こんなウワサを立てられるのも、さっさと寄付しないからである。この記事が出て、慌てて寄付するのもみっともないが、やらないよりはなんぼかいい。
本人がTwitterでつぶやいているように「孫正義、死すとも、正義は死せず」。早うやんなはれ。
(文=元木昌彦)
※編集部註
この記事にある「週刊現代」が発売された16日の夕方になって、ソフトバンクは100億円の配分先を発表いたしました。時事通信などの報道によると、孫氏は6月上旬に発足する「東日本大震災復興支援財団(仮称)」に40億円を寄付。同財団はソフトバンクが中心となって設立され、震災により親を失った子どもへの奨学金や、NPOによる被災地活動の支援などを行うとのこと。このほか、日本赤十字社と中央共同募金会、岩手、宮城、福島各県にそれぞれ10億円、茨城、千葉両県に2億円ずつ、日本ユニセフ協会などに計6億円を寄付するとなっています。
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
本当に信用してもいいんですか?
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