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「表現の自由」では許されない エロマンガ「自粛案」の顛末と、児童ポルノ法改定強化の危機

akisora0514.jpg『あきそら』秋田書店

 先月、多くのマンガ・アニメファンが驚愕した成年向けコミックを発行するアダルト系出版社を含めた出版業界の「自粛案」をめぐる問題(記事参照)。直後に開かれたアダルト系出版社の業界団体・出版倫理懇話会(以下、懇話会)の会合では、あくまで現実味のない「素案」に過ぎないことが確認された。その上で、大手から中小まで、各出版社が恐れる都条例の先にある危機が浮かび上がってきた。

 前回の記事でも記した通り、問題となった「自粛案」は、日本雑誌協会などで構成される出版倫理協議会(以下、出倫協)内に設けられた「児童と表現のあり方検討委員会」で示されたもの。本来、一部の委員にしか配布されなかった文書だったが、何者かによって、この資料は懇話会に加盟する各社に配布され、騒動の引き金となった。

 筆者の元にも複数の出版関係者から情報が提供されたが、中には「早く(自粛案を)つぶせ」などと口走る者もあり、さまざまな混乱が巻き起こっていることを感じさせた。さらには、この「自粛案」が配布された「児童と表現のあり方検討委員会」にオブザーバーとして出席していた懇話会の長嶋博文会長が「出倫協に5時間にわたって叱責された」という噂も飛び交い、「大手出版社が、中小アダルト系出版社をスケープゴートにしようとしている」という怒り交じりの陰謀論まで、巻き起こっていた。

 こうした中、4月14日に開催された懇話会の会合に招かれた日本雑誌協会の渡辺桂志氏は、「日刊サイゾーの記事は先走りすぎている」と強く否定した上で、そもそも誰も「自粛案」に賛同しておらず、申し合わせ案を作るための、さらに素案レベルのものに過ぎないと話した。

「検討委員会では、参加者の誰もが”自粛では文言が強すぎる”と一致して、すべてリセットして話合おうということになったはずです。そのことは、その場にいた長嶋会長も確認していました」(渡辺氏)

 対して、長嶋氏は、「リセットということであれば、それで構いません。それならば、申し合わせをするか、しないか。もし、するなら文言をどうするかということを話し合えばよいでしょう」と、その場を収めた。

 こうして、懇話会の会合は先に示された「自粛案」が現実味のあるものとして各社に配布されたことが誤解だったことを確認。その上で、申し合わせ案の是非の検討、懇話会が「児童と表現のあり方検討委員会」にオブザーバー以外の方法で参加する等も含めて話し合うことなどを確認し幕を閉じた。

◆本当の恐怖は児童ポルノ法改定

 そもそも、なぜ「自粛案」と呼ばれるような申し合わせを考慮する必要が迫られ、さらに出版各社の間に混乱を招いたのか。

 後日、取材した出倫協「児童と表現のあり方検討委員会」の委員で日本雑誌協会編集倫理委員長の山了吉氏は語る。

「長嶋氏に検討委員会へ参加していただいたのは、さまざまな意見をお伺いする目的です。もし、我々の疑問や質問を、責められていると感じたのなら誤解ですし、大変残念です」

 その上で、山氏は都条例改定が成立したことで、児童ポルノ法を改定しマンガを含めた規制が行われることの危機が強まっていると警鐘を鳴らす。

「今回の都条例改定が、国会でなかなか実現されない児童ポルノ法の改定と密接に絡んでいるのは間違いありません。その中で、規制を進める主張を行う人々から再びマンガが攻撃材料にされるのは防げません。その時には、都条例と違い成年マークの付いた雑誌や単行本も、攻撃対象にされるでしょう。そのため、協議会、懇話会の枠にこだわらず抜本的な対策が必要になってきていると思います」(山氏)

 与野党共に、まだ新たに児童ポルノ法の改定案を提出する動きは見せていない。しかし、規制強化を目指す側が、とにかく絵(マンガ・アニメ)を対象に入れたいという考えを改めておらず、東京都から国の法律へ、をもくろんでいることは容易に想像できる。そうした中で、成人マークの有無にかかわらず、なんらかの対策を設ける必要はあると多くの出版関係者は考えているようだ。

 例えば、出版元の秋田書店が重版を行わないことを決めた糸杉柾宏氏の『あきそら』について、山氏は次のように話す。

「ページを変えて手を替え品を替え、さまざまな性表現が出てきます。雑誌ならばさまざまなジャンルの作品が掲載されているので性的刺激は薄められますが、単行本になれば、しつこいほどの性表現が出てくることになる。こんなに大胆な描写が繰り返される必然性は、どこにあるのか? マンガ家と編集者で表現のあり方を考えたほうがよいと思います」(前出・山氏)

 ならば「成年コミックマーク付きならば問題ないのか?」となりそうだが、山氏は大山田満月氏の『ちいさなおててにやわらかほっぺ』(茜新社)を例に挙げ「成年コミックマークがあるからといって、幼児を性の対象としてもてあそぶことが”表現の自由”とはならない」と説く。

 こうした作品が出版業界内部でも批判されるのは、児童ポルノ法改定でマンガ・アニメが規制されるのを防ぐための努力を無にしかねないと見られているからだ。

 いずれにせよ、具体的な対抗策は、これからの話し合いに持ち越された。最後に、前出の懇話会の会合中、ロリ系の成年マーク付きマンガを出版する各社からの発言は、ほとんどなかったことだけは記しておく。
(取材・文=昼間たかし)

あきそら 2

アウアウ?(編)

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最終更新:2013/09/13 16:48
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