帰ってきた最高級のおバカ映画 『ジャッカス3D』×『イッテQ!』を手掛ける人気放送作家 鮫肌文殊
#映画
──2000年以降、世界を阿鼻叫喚の渦に巻き込んできた超強力おバカムービーが、なぜか3D仕様でカムバック。本作を、数々のバラエティ番組を手掛ける気鋭の構成作家はどう観るのか?
『jackass(ジャッカス)』とは、「バカ、アホ、間抜け」を意味するスラングだ。もともとは2000年からアメリカのMTVで放送が開始されたテレビ番組で、低俗で危険なパフォーマンスを、無目的かつ無差別に繰り広げ、全米から非難と喝采を浴びた。02年には、寿司屋でワサビを鼻からキメてゲロを吐き散らかしたり、ミニカーを肛門に突っ込んで病院にレントゲンを撮りにいったりと、バカっぷりに磨きがかかった劇場版が公開され大ヒット。そして06年の劇場版第2弾を経てこの春、『ジャッカス3D』と銘打ったシリーズ最新作が日本公開される。
いわば、「飛び出すバカ」。ウソかホントか知らないが、宣伝チラシにも「俺たちはジェームズ・キャメロンが『アバター』で使ったのと同じ3D技術を、スティーヴォー【註:メインキャストの1人】のケツにぶち込んだぜ!」なんて文句が躍っている。すでに全米では、本作公開初週、話題の映画『ソーシャル・ネットワーク』を興行成績1位の座から引きずり降ろすほどの好調ぶりなのだ。
そこでこの『ジャッカス3D』を、『進め!電波少年』や『世界の果てまでイッテQ!』(共に日本テレビ)など、『ジャッカス3D』と似ているといえなくもない数々の突撃系バラエティ番組を手掛けてきた放送作家・鮫肌文殊氏に観ていただくこととした。その第一印象は、「ノリが懐かしかった」。まだ鮫肌氏が駆け出しの頃、80年代後半~90年代初頭のテレビ界は、「バカをやってる奴が一番偉い」「誰が最もキチガイかをみんなで競っていた」時代で、自身もどれだけトチ狂った企画を出せるか、そればかり考えていたという。当時のバカ番組の代表格といえば、『ビートたけしのお笑いウルトラクイズ』(同)だろう。
「あの頃はゲラゲラ笑って観てましたけど、例えば、同番組の伝説的なシーンである、バスを水没させるクイズとか、今観てるとただの水難事故ですからね。バラエティでもなんでもない(笑)」
突き抜けたバカは強烈に記憶に残る。同番組からいわゆる「リアクション芸人」も生まれたわけで、バカを貫き通した功績は大きい。
■日本のテレビでは絶対にマネできないことを平然と
しかし一方で『ジャッカス3D』は、基本的には日本のテレビ番組とはまったくの「別モノ」だという。日本のバラエティ番組では、出演者にケガさせることなど今や完全にご法度。よって、どれだけ危険な映像が流れていても、実際は絶対に安全な空間で収録が行われている。
また、日本のバラエティにおける定番企画には、「テングになってる芸人を懲らしめる」といった大義名分が必ず存在する。かつてあのテリー伊藤氏は、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)の放送作家に「企画には正義がなければいけない。正義がない企画は楽しめない」と語ったことがあるそうだ。つまり、大義があるからこそ、無茶苦茶やっても許されるし、笑えるのだと。
これに対して『ジャッカス』には大義もクソもないし、ガチで体を張り、病院送りになることもしばしばだ。
「あそこまで徹底してバカをやられると、すがすがしいですよね。と同時に彼らがプロなのは、ほとんど血を見せないところ。日本におけるリアクション芸人もそうなんですけど、出血したら負けなんです。どんなに面白くても、視聴者は血を見たら引いちゃうから」
過去には鮫肌氏も、深夜番組の生放送で、電撃ネットワーク・南部虎弾氏の金タマとAV女優の鼻フックを紐で結んで綱引き勝負をさせるなど、バカバカしい企画を連発したが、今はそうはいかないという。不況下でスポンサーもつきにくいし、世間の目も厳しい。放送作家には上から「コンプライアンスを重視せよ」との通達が来る。細かい制約がどんどん進化および深化して、針の穴に糸を通すようにして企画を考えなければならない。
「そういう身からすると、『ジャッカス3D』はすごいうらやましいですね」
確かに同作は、小学生が考えるようなくだらないネタを、いい大人がのびのび、かつ真剣にやっているし、日本のテレビではタブーなスカトロネタも全開だ。そういう意味では、日本のバラエティ番組とは完全に別モノといえるだろう。
かといって、参考になる部分がないわけでもないらしい。同作に、巨大なバルーンを用いてトランポリンの要領で人間を空高く放り上げ、それを下からペイント弾で撃つというネタがあるのだが、この仕掛けと同じものが、実際に『イッテQ!』で使われたそうだ。
「ああいうふうに人間が信じられない動きをする、面白いリアクションを生む装置は、なかなか発明されないんですよ。さすがに日本では飛んでる人間を撃ちはしないですけど。『革新的な罰ゲームはないか?』みたいな目線で見てはいましたね。それ以外は、怖すぎて参考にできない(笑)」
■『ジャッカス3D』に見る3Dの正しい使い方
では、本作のウリである「3D」という部分に関してはどう見るのか?
「飛び出してきてほしくないものが飛び出してくるっていう、ものすごく悪意のある使い方をしてるじゃないですか。お笑いとしては大正解ですよね」
そう、本作でスクリーンから飛び出してくるのは、大量のディルドやリアルなチンポ【もちろん日本版ではボカシあり】、ウンコにゲロ、屁でつくったシャボン玉など、思わず手で払いのけたくなってしまうようなものばかり。ある意味、3Dでの”遊び方”を心得ているといえるかもしれない。当然、新しい遊び方が生まれれば新しい企画も生まれる。その点では鮫肌氏も、今後の3Dの可能性には注目しているようだ。
「例えば、カメラの小型化って実は革新的なことで、あれのおかげでドキュメントバラエティが成立してるんですよ。CCDカメラで24時間撮り続けられると、撮られる対象はカメラを意識しなくなってくる。だからこそ素が出て面白くなるっていうのが、ドキュバラの基本なんです。3Dも同じで、こういうものを撮影可能なカメラが出てくることで、新しいタイプのバラエティ番組も生まれるんじゃないかな」
実際に3Dがお茶の間にまで降りてくるのはまだ先の話かもしれないが、鮫肌氏としては、「飛び出す」というよりも「空間的な奥行きを生かす」方向で3Dを使ってみたいという。
「『ジャッカス3D』みたいな使い方もアリですけど、3Dは旅番組とも相性がいいと思うんです。例えば『ちい散歩』(テレビ朝日)を3D化したら、実際に地井武男さんと歩いてる気分になれますよ。目の前に下町のおじさんがいたり、職人さんの蝋細工か何かを地井さんと一緒に覗き込んだり(笑)」
現在は主に壮大なファンタジーや派手なアクションに用いられがちな3Dだが、「空間の共有」という意味では、より身近な、日常的な風景に応用しても面白いのではないか、というわけだ。3Dの技術がさらに向上し、3D対応型テレビが一般家庭にも普及するようになれば、ほのぼのとした空間に視聴者を引き込むような方向でも、番組制作が進んでいくのかもしれない。
と、やや『ジャッカス3D』からは話が逸れたが、最後に、鮫肌氏なりの同作オススメポイントを。
「言葉がわからなくても笑えるっていうのは、バラエティの基本なんです。人がバナナの皮で転ぶとか落とし穴に落ちるとか、そういう原初的な笑いを極めたのが『ジャッカス3D』だと思うんですよ。3Dも正しく使われてるし、みんなでゲラゲラ笑うには最適な映画ではないでしょうか。あと、後半は下ネタ連発なので、鑑賞前の食事は控えたほうがいいかも(笑)」
(構成・文/須藤 輝)
鮫肌文殊(さめはだ・もんぢゅ)
1965年、神戸生まれ。10代の頃より放送作家活動を開始し、現在では『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)や『さんまのSUPERからくりTV』(TBS)など数多くのバラエティ番組を担当。本誌に「鮫肌文殊と山名宏和の だから直接聞いてみた」を連載中。
『ジャッカス 3D』
伝説のバカ映画が、まさかの3D仕様でカムバック。チンコもディルドも、そしてウンコも飛び出す、体当たりアクション・エンタテインメント。刺激120%の映像の数々に、映画館は阿鼻叫喚必至!?
製作/スパイク・ジョーンズほか
監督/ジェフ・トレメイン
出演/ジョニー・ノックスヴィル、バム・マージェラ、スティーヴォーほか
配給/パラマウント・ピクチャーズ
公開/震災の影響により公開延期となりました。今後の公開予定に関しては以下の公式サイトをご参照ください。
公式サイト〈http://www.jackass-3d.jp/〉
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