「同じ”ウンコ”でも文字に個性が出る!」 自由でアナーキーな『こどもの発想』
#本 #インタビュー
「バカサイ」や「バカドリル」でお馴染みの天久聖一氏が監修した伝説の読者コーナー「コロコロバカデミー」(「月刊コロコロコミック」小学館)。その傑作投稿を集めた新刊『こどもの発想』(アスペクト)が発売された。「コロコロ」だからって子ども向けと思いきや大間違い。子どもの脳味噌からダイレクトに発信された投稿の数々はあまりにも自由かつアナーキー! 大人には決して思いつけない、思いついてもさすがに投稿する気にはならない爆笑作品がギッシリ詰まった一冊だ。そこで仕掛け人の天久氏に、この本の魅力を語ってもらった。
――そもそも、「コロコロコミック」で投稿コーナーを担当したきっかけは何だったんですか。
「有名な変態編集者が『小学6年生』の編集長になった時、誌面がやたらとサブカル寄りになって、『変わったことをやってみよう』みたいな雰囲気があったんですよ。その流れでボクも投稿コーナーをやらせてもらって、この本に載ってるような投稿を募集してたんだけど、それが拡大して『コロコロ』に移ったんです」
(c)天久聖一/アスペクト(以下同)
――天久さんは「週刊SPA!」(扶桑社)で「バカサイ」という投稿コーナーもやられていますが、同じバカでも大人と子どもの投稿っていうのは違うものですか。
「思春期の前か後かっていうのが重要かもね。自意識の表現方法がその前後で激変する」
――あ、そこが重要だと。
「思春期前は、一方的に自分をアピールするヤツらが多いのね。初めて社会のルールを覚え始める頃だから、まず自分の中で最大限の下ネタや過激な言葉を、社会とか親とかにぶつけて、そこからどういう反応が返ってくるかで自己の輪郭を確かめたいんじゃないかな。思春期を過ぎると逆に内側に向かって、内面のパーソナリティーを表現することで他人との共通項を求めようとする。『バカサイ』なんかに自虐的なネタが多いのも、たぶんそのへん。どっちもある意味、自分探しなんだけどベクトルは真逆」
――面白い投稿を集めるには「お題」が重要になると思いますが、作る上で気をつけていることはありますか。
「答えに『ウンコ』って書いて面白くなるかどうかってのが基本だね」
――そこでさすがに「ウンコ」って書いてこないのが大人、本当に書いてきちゃうのが子どもとか。
「『ウンコ』って抽象的な面と具体的な面、両方持ってるからね。そこを抽象的にとらえてヒネってくるのが大人。素材そのままで提出してくるのが子ども」
――今回の本も肉筆のまま載せていますね。
「そこは見せたい部分だったからね。同じ『ウンコ』って言葉にもその子なりのアプローチがあるんだよ。それが各自の筆跡に現れてくる。あと、子どもの字って見るだけでテンション上がるじゃん」
――ヘタクソなりに”よそ行き”の字を書こうとして、妙に止め・はね・はらいがしっかりしてたりして、味わい深いです。
「そういう子どもの”いじましさ”っていいよね。向こうにしてみれば雑誌投稿なんて一大イベントだろうし。この『心霊男爵』なんて書いてくる子どもなんか、ちゃんと辞書引いて調べたんだろうなって。そういう努力の跡も面白い」
――天久さんが好きなタイプのネタってどんなものですか。
(右)「せめて『コロコロ』に連載中の漫画であって欲しかった」と天久氏。
「うーん、野蛮さの中にもその子のバックボーンというか、育ちが透けて見えるネタかな。こいつ面白いけど、クラスじゃ大人しいんだろうなって感じの。あとは、反則なんだけど、お題の前提を裏切ってくるネタだね。この『表紙だけマンガ大賞』ってコーナーは、子どもにオリジナル漫画の表紙を描かせてるんだけど、これなんか堂々と『ドカベン』の表紙トレースしてるからね。たまにこんなネタを見つけるとガッカリする。いい意味で(笑)」
――この投稿者、ペンネームも水島新司になってますからね。本人かよ!? っていう(笑)。
「本人かもね(笑)。あと、やたらとディティールにこだわってるネタも好きだね、アウトサイダーが描いたマンダラみたいなやつ。子どもが描いてくるものって、大人が見たらワケ分からないネタでも、自分なりに理由があるんですよ。以前、住宅の業界誌で子どもに理想の家を描いてもらうっていう企画をやってて、紙にビッチリめちゃくちゃな家を描いてくるんだけど『コレなに?』って聞くと、ここはこうで……って全部説明ができるの。大人は勝手に解釈を放棄して『子どもって自由だねー』とか言うけど、実は子どもからしたらちゃんと理由があるんだよ」
「百円玉」「女子トイレ」「青春」など、秀逸な解答がズラリ。
――ところで、天久さん自身はどんな子どもだったんですか
「やっぱりウンコのネタとか大好きでしたけどね。でも反面、ませた子どもだったんで、投稿するとなったらウンコみたいな直球じゃなくて、むっちゃ大人に媚びたようなネタを書いてた気がする。オレが選ぶ側だったら真っ先にボツにするタイプだね(笑)」
――子ども心に「ウンコなんて書いてくるヤツはガキだ」みたいな。
「こっちは必死で駆け引きしたつもりなのに、採用されてるのが『ウンコ』じゃカチンとくるだろうね。絵なんかも大人ってヘンに上手なものより、下手くそな子どもらしさを好むでしょ。だから連載中は子どもの中でも賛否両論でしたよ。なんか『コロコロ』の投稿欄のレベル落ちたって。ま、そういう子どもの方が正しいよ(笑)」
――天久さんは、投稿ハガキを全部読んでたんですか? 大半はクソみたいなハガキでしょうから大変そうですけど。
「ハガキを選ぶのは本当に大変だった! 2、3時間ずーっとウンコとか書いてあるハガキを見てるんだもん。帰ったらかみさんに『目がドングリみたいになってるよ』って言われたことがあって(笑)。瞳孔が開いて黒目がちになっちゃうんだよ」
――選ぶ基準も分からなくなってきそうですね。
「ずっと見てると、完全にトランス状態だからね。一周してなんでもない単語が妙にツボに入ることもあるよ。でもそんな中でも明らかにセンスある子っているんだ。すごい量のハガキだからバーッて見ていくんだけど、時々ピタッって手が止まるようなネタがあるのね。そしたら『先月もこの子選んだよ』って。たぶんロクな大人にならないだろうけど(笑)」
――「コロコロ」って女の子も読んでるんですか?
「これ勘違いされやすいんだけど、女の子の投稿も多かったよ。特に下ネタなんかは女の子の方がエグい。コレ(表紙だけマンガ大賞のネタ)とか女の子だからね。明らかにお尻っぽい山からキノコが飛び出してて……本人もどこまで意識しているのか分からないけど、女の子って本能でこういうの描いちゃうんだよね」
(右)戸棚に並ぶ銃とアルコールの中に、なぜか日本酒が……。
――今回の本に収録されているのは2000年代初頭からの数年分のものですが、10年後くらいにまたこういう投稿コーナーをやったら、時代性も見えてきて面白いかもしれないですね。
「うーん、オレはもういいかな(笑)。当時は今みたいな大喜利ブームやネタモノがなかった頃だからこういうものが集まったけど、今は子どもたちも相当分かってるからね。自由って一回見つかると意識的な振る舞いにしかならないから。オレはもう手の内明かしたから資格ないです」
――天久さんは、雑誌の投稿コーナーや『味写入門』(アスペクト)など「素人」というものに常に注目していますが、素人の魅力ってなんですか。
「とくに『素人』を面白いと思ってるワケじゃなくて、素人が生み出す無意識の産物が面白いんじゃないかな。それまで目に止まらなかった日常や、ゴミ箱の中から新しい解釈を見つけるのが好きなんだよ。すでに流通している『面白さ』って既知のものだから、あとは評価や批評しかできないじゃん。ネットユーザーや若い連中を見てても思うけど、今後は作り手より受け手の『面白がり方』に笑いもシフトしていくんじゃないのかな」
(取材・文=北村ヂン)
●あまひさ・まさかず
1968年香川県生まれ。89年、漫画家デビュー。以来、主に漫画以外の分野で活躍中。主な著書に『味写入門』(アスペクト)、『バングラデシュ日本』(太田出版)、『新しいバカドリル』(ポプラ社)、『バカはサイレンで泣く』(扶桑社)ほか。電気グルーヴのPVも手掛け、『モノノケダンス』はスペースシャワーTVの「ミュージックビデオアワード09」で年間最優秀作品に選ばれた。
爆笑必至。
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