「里中満智子さんとアグネス・チャンさんが対談すればいい」
#児童ポルノ #日本ユニセフ
取材の中で橋本氏が何度も語ったのは、議論を尽くす必要性と、議論をするために知識が必要という点だ。「自分は感性の近い人の発言は信じる。だから(漫画家の)里中満智子さんが、おかしいと言っていたから、やはりおかしいのだろう、と思った」と「非実在青少年」の問題にもユーモアを交えて話す。そうしたバックグラウンドを持っているがゆえに、調査をしたり問題点を熟考したりもせず、議論を尽くさない人たちには規制への賛否に関係なく、辛口だ。
規制に反対する人々の中ではあまり注目されていないが、9月に京都国際マンガミュージアムで開催されたシンポジウム「マンガ表現規制問題の根源を問う」では、評論家の呉智英氏から表現の規制に反対する人たちの知識のなさに対する批判があった。「あれだけの知識人が言うのだから、その通りだと思う」と、橋本氏はネット上に散見される、規制に反対する人たちの「おかしい意見」はかえって危険だと説明する。そうした意見を、規制に賛成する人々たちは「規制に反対しているのは、ああいうおかしい人たちだ」と喧伝し、国民も規制に賛成する声にばかり、納得してしまいかねない。規制に反対しているはずが結果的に偏った規制賛成論に利用されかねない。「そういう危険な状態にある」のが、今の状態だ。それだからこそ、対話の場は絶対に必要である。
「里中満智子さんとアグネスさんがきちんと対談するのもよいでしょう。喧嘩別れしてもいい。分かっていないこと、調べてなかったこと、いろいろ出てくるんではないでしょうか。何より、お二方とも、思惑があってやっているわけではないですから」
規制を主張する人々は、都条例の時に出版社は漫画が規制されると収益が落ちるから反対している。そして、漫画家は出版社に逆らえないから反対の声を挙げていると考えていたそうだ。それだからこそ、里中氏や、あるいは、ちばてつや氏のような出版社の風下にたつことのない大家と対談すれば、流れも変わっていくと橋本氏は考えている。
「議論ができる人と、一緒にお茶を飲みながら話をするといった場を提案してもらいたい」。橋本氏からは、こんな呼びかけもあった。 もちろん「では、さっそく公開討論会を設定して……」というわけにはいかない。どんな議論のテーブルも、一歩間違えると単なるつばぜり合いになってしまう。互いの持っている知識を整理して議論のレベルを、どのあたりに設定するかも考える必要がある。児童ポルノ法改定の、問題点のひとつ、冤罪の危惧の先に「代用監獄」や、長期拘留を可能にする刑事訴訟法の問題が見えてくる。それらを無視して「表現の自由」とか「子どもを保護する」議論だけをすることはできない。
規制に反対する人々からは「この運動はシングルイシューだ」という声を度々聞くことがある。正確には「シングルイシュー・ポリティクス」という、この用語は一つの論点・争点だけをめぐる、政治運動という意味で使われる。この言葉が多様される背景には、戦後社会における市民運動のモデルに対する不信感がある。例えば、戦争反対なら、反原発で、○○にも反対で……と、セットで思考することを強制されたことへの不信感である。
そのことは理解できるとしても「児童ポルノ」「非実在青少年」といった問題を、それ単独で考えることは視野が狭いと言わざるを得ない。求められるのは、それらを切り口に、さまざまな問題へと目を向ける意志だ。
「”代用監獄”も”児童ポルノ”も、国際的な人権基準の視点から指摘を受けている。同じように指摘を受けているのなら、併せて議論できるといいでしょう」
規制の賛否に関わらず、合意形成が可能な対話のためには、知識のレベルアップが不可欠である、と筆者は考える。
(取材・文=昼間 たかし)
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