世代を超えて愛される地上最速ホビー「ミニ四駆」今昔物語
#サブカルチャー #バック・トゥ・ザ・80'S
アナログとデジタルの過渡期であった1980年代。WiiもPS3もなかったけれど、ジャンクでチープなおもちゃがあふれていた。足りない技術を想像力で補い、夢中になって集めた「キン消し」「ミニ四駆」「ビックリマンシール」……。なつかしいおもちゃたちの現在の姿を探る!
「行け!」と言えばグワシ! と前進し、「曲がれ!」と言えばギューン! と曲がる。ホッケースティックみたいな「アレ」でマシンの動きを制御して、僕たちは地平線の彼方を目指して走り続けていた……。
これだけで「ピン!」と来た御仁も多いだろう。そう、これぞ80年代が生んだ地上最速のホビー。タミヤ(当時・田宮模型)のミニ四駆だ! 単三電池2本、スナップフィット(はめ込み式)のお手軽キット、創意工夫次第でいくらでもパワーアップさせることのできる自由度。そしてただ速いだけでは勝ち残れないレースの奥深さ! 今回はそんな手のひらサイズのレーシングマシン、ミニ四駆の今昔物語をお送りしよう。
■レーサーミニ四駆誕生前夜
ミニ四駆が産声を上げたのは1980年代初頭のこと。当時、プラモデルの精密度は年々高まり、子どものおもちゃから大人向けのホビーに成長しつつあった。そんななかでスタートしたミニ四駆開発の発端は、「リアルな模型の追求も大事だが、もっと気楽に作れる模型も欲しい!」というタミヤ社長(現会長)・田宮俊作氏の思いだった。かくして82年「『もっと気楽に』『子どもでも作れる』四輪駆動の模型」というコンセプトの元、当時人気の実車フォード・レインジャー4×4、シボレー・シビック4×4をモデルとした四輪駆動スケールモデル「ミニ四駆」が世に誕生した。
「出発点は当時RCカーを買えなかった子どもたちのためのプラモデルというイメージでした」
このように語るのは、現在もミニ四駆イベントに携わるタミヤスタッフ・A氏(以下・A氏)。アニメ作家・大塚康生監修による当時の人気RCカー「ワイルド・ウイリス」を手のひらサイズにダウンサイジングした「ワイルド・ウイリスJr.」は、RCカーに手が届かなかった子どもたちの間に広く受け入れられた。やがて子どもたちから「もっと速く走らせたい」という声が上がり始め、それに応える形で86年、新しいミニ四駆「レーサーミニ四駆」が誕生する。シャーシ(モーターやシャフトなどを搭載する車体部分)を再設計し、スピードレース仕様となったレーサーミニ四駆。そのモチーフとなったのは、ホットショットやホーネットといった当時の人気オフロードRCカーだ。
「実際にレース志向のものを出したところ、子どもたちの食い付きがすごかったですね。やっぱり男子って誰しもそうですけど、速いものが好きなんですよね(笑)」(A氏)
男子のハートをがっちり掴んだレーサーミニ四駆は、発売の翌年には累計1000万キットの売上を記録。瞬く間にスーパーヒット商品となった。
また、タミヤは小学館との共催で「コロコログランプリ」というRCカーのイベントを定期的に開催していたが、ここでミニ四駆用のサーキットも設置。ここで、子どもたちは創意工夫を凝らした改造を施したミニ四駆を持ち寄ってレースに勤しんでいた。これを見てタミヤは性能を上げるための「グレードアップ・パーツ」の発売を開始。ミニ四駆に「作る楽しさ」「走らせる楽しさ」、さらに「改造する楽しさ」が加わったのだ。
■ミニ四駆フィーバーに沸いた80年代末
ここから破竹の快進撃が始まる。
87年末に、小学生向け漫画雑誌「コロコロコミック」(小学館)で、ミニ四駆漫画『ダッシュ!四駆郎』の連載がスタート。88年夏にはミニ四駆全国選手権大会「ジャパンカップ」が日本全国各地で開催。タミヤ社員が扮する「前ちゃん」、「ミニ四ファイター」といったキャラクターの人気もあって、累計5万3000人もの動員を記録。この現象に日本のメディアのみならず、アメリカのCNNからも取材陣がかけつけるほどの話題を振りまいた。
「当時はデパートの屋上とかで大会をやったのですが、ある場所では行列がデパートの周りで収まらず、地下鉄の駅まで伸びて、それがそのまま隣の駅まで伸びていたそうです。それだけでなく、デパートの飲食店街から軒並み食べ物が消えたっていう話もあるんですよ」(A氏)
かくしてレーサーミニ四駆は、90年には累計5000万キットを売り上げる。80年代末期はミニ四駆黄金期と言っても過言ではなかった。この時期が世に言う「第一次ミニ四駆ブーム」である。
■ミニ四駆PROで甦る懐かしのマシン
途中で2代目に交代していたのを知ってる!?
90年代に入り、ブームの中核を担っていた小中学生が成長したことで、一旦ブームは沈静化するも、レーサーミニ四駆に続く新シリーズ「フルカウルミニ四駆」が第一次ブームを知らない小学生にヒット。それを受けて始まった漫画『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』は、メインターゲットの小中学生の間で大人気となるが、その登場キャラクターはいわゆる「腐女子」層にもがっつりブレイク。キャラクターグッズとしてもミニ四駆が受け入れられ、第二次ミニ四駆ブームが到来した。
その後、90年代末には再びブームは沈静化。新商品のリリースペースは落ちたものの、タミヤは2000年以降も公式イベントは地道に開催し続けていた。A氏は「この時期に一過性のホビーから、国民的ホビーとして定着し始めた」と回顧する。
「05年に新たなミニ四駆としてミニ四駆PROを発売したのですが、これまでは参加資格が中学生までに限られていた公式大会に大人でも参加出来るクラスを用意しました。すると、80年代当時にミニ四駆を楽しんでいた大学生や社会人の方が「洒落でやってみようぜ」と、同世代の仲間を連れて参加してくれるようになったんです。」(A氏)
ちなみに現在、ミニ四駆レースで主流となっているミニ四駆PROでは新しいデザインのマシンもリリースされているが、冒頭で紹介したホットショットJr.やエンペラーといったかつての人気マシンをリメイクしたモデルの人気も高いのだそうだ。
■ミニ四駆が誘う、奥深い「技術」の世界
現在のブームはかつてミニ四駆で遊んでいた第一次ブーム世代の親とその子どもたち、そして現在社会人となった第二次ブーム世代が支えていると言える。小中学生が中核を担っていたかつてとは違い、非常に幅広い世代から愛されているのが「第三次ブーム」の特徴だ。
今やミニ四駆は世代を超えた、一つのホビーとして確立し始めている。
いちゃんもミニ四レーサーだ!
08年に新橋にオープンした「タミヤプラモデルファクトリー新橋店」の大型サーキットには、仕事を終えたスーツ姿のサラリーマンたちが集い、仕事帰りの麻雀ならぬレースに興じている。定期的に行われている公式レース大会では、年端もいかない少年少女から還暦を迎えるおじいちゃんまでが「ミニ四駆」というマシンを通じてコミュニケーションを重ねている。彼らは愛車に創意工夫をこらした改造を施し、レースの勝敗に一喜一憂している。筆者はそこに、日本人が古来より持っている「技術信仰」の表れを見たような気がした。
「先日、小惑星探査機「はやぶさ」が戻ってきて、日本全体がものすごく盛り上がりましたよね? ミニ四駆は、そういう最先端技術には追いついていないかもしれないけど、「技術」に触れている時の高揚感を体験できる最小のホビーだと考えています。そして『俺のマシンは最速かもしれない。これならいけるかもしれない』っていう気持ちを持って、コースの前に立ってガクガク足を震わせている子どもたち。少年時代にこの気持ちを体験できるのは素晴らしいと思うんです」(A氏)
05年には販売累計台数が1億7000万台を突破したミニ四駆は現在、「レーサーミニ四駆」、「スーパーミニ四駆」、「フルカウルミニ四駆」、「ミニ四駆PRO」、「エアロミニ四駆」、「マイティミニ四駆」など様々なシリーズが展開。07年にはタイ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、ロシア、日本の代表がワールドチャンピオンの座を争う世界大会「ミニ四駆マグナムGP ワールドチャンピオン戦」が91年以来16年ぶりに開催されるなど、いまやミニ四駆熱はワールドクラス。技術立国「日本」の生み出した地上最速のホビーは、すさまじいスピードで世界中を駆け抜けている。
ミニ四駆を通じて、言語も人種も異なる世界中のミニ四レーサーが繋がることができたら……、ちょっとだけ素敵なことじゃないだろうか。
■特別企画! 「ミニ四駆GP2010」レポート in 浅草ROX
6月12日、13日に浅草ROXにてミニ四駆の公式大会が開催される! ということで、13日の取材に行ってみた。オープンクラス(年齢、ホイールサイズなどの制限なし)、大径タイヤ限定クラスという2つのクラスが同時に開催されるということもあり、老若男女問わず幅広いミニ四レーサーが集い、丁々発止の白熱レースを繰り広げた。
会場には、熱気ムンムンのホビー少年&少女やベテランレーサーのみならず、お弁当片手に来場した父子や親子三代で参加するホビー一家、10年来の美人過ぎる女性ミニ四駆ファン、地方から駆け付けた夫婦など、バラエティに富んだ参加者がズラリ。実に500人以上もの来場者を記録した。写真から会場の盛り上がりを少しでも感じていていただければ幸いである。
(取材/文=有田シュン[n3o])
『ダッシュ!四駆郎』ファン、垂涎必至。
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