「文系離れが国を滅ぼす」カリスマ編集者・濱崎誉史朗が語る書籍への希望
#インタビュー #サブカルチャー
「私は企画魔的な編集者だと思うんです」
そう語るのは、社会評論社の編集者・濱崎誉史朗氏。以前、日刊サイゾーでも書評を掲載した『エロ語呂世界史年号』、『ニセドイツ』、『いんちきおもちゃ大図鑑』など、一癖もふた癖もある書籍を担当した敏腕編集者である。彼の作る本は一言で言えば、”珍書・奇書”。変な言い方をすれば「ヘンな本」ばかりだ。日本中の高層ビルの写真をひたすら収めたもの、アジア産の珍奇なおもちゃを集めたもの、エロい語呂で覚える歴史参考書、世界中の時刻表をまとめたもの……。彼の担当した書籍の持つ独自の着眼点と統一感から、出版関係者、書店員の間でも編集者・濱崎誉史朗ファンはじわりじわりと増加中。これまでも彼の担当した書籍を大々的にフィーチャーした「ハマザキカク」というブックフェアが2度開催され、現在も有隣堂ヨドバシAKIBA店において3回目のブックフェアが開催中である。
毎日最低一つは企画を考え、この半年でおよそ550もの企画案を出したというアイデアマン濱崎氏が、出版というメディアを通じて訴えたいこととは何なのだろうか。
■アイデアの種
──毎日一つは企画を立てているという話を聞いたのですが、毎日アイデアを生み出す原動力は何なのでしょうか。
「テクニック的なものもあるのですが、それよりも元々私は愉快犯的な気質があるんです。それはたぶん孤独心から来ているんじゃないかな。もっと注目を浴びたいとか思っちゃう。あとは天邪鬼なところもあって、他の人と極端に差別化を図ろうと工夫するところがあるんですね。そういった性格的な部分がベースになっていると思います」
──アイデアを思いつくために心がけていることはありますか?
「本を読んでいます。月に60冊くらい。昔、自分はそこそこのアイデアマンだと思っていたんですけど、でもこれだけじゃいけないと思い、たくさん本を読んで修行しましたね。物事の概念自体に気づくためにも、元々いろんなことを知ってないといけないから。例えば、こういう本はもう出ているかどうかと分かるためには、自分が想像できる概念の幅を誰よりも広くしないといけない。アイデア力というものは、読書量に比例すると思います」
■本を「作る」ということ
──濱崎さんは書籍を企画し、執筆者を探し、自ら組版、装丁、帯コピー、時にはポップまで作られます。
「著者のみなさんから、まるで共著みたいってよく言われるんですよ。著者に質問攻めにして刺激を与えたりして、著者と二人でけっこうハイな状況になって作ったりするんですね。普通の出版社の本と違って、私の企画ってすごい”濱崎臭”がするって言われるんですけど、それは私がたぶん著者と一心同体で作っているからだと思います。それに……うちは小出版だからそんなに大量に部数が刷れないんですよ。でも私が作りたいのはカラーの本だし、大部数配本したい。そうするとコストを相当抑えて、価格を低下させないといけないんです。外注するとやっぱりお金がかかるわけで、そうすると全部自分でやるしか無いっていうのが、決定的な理由です。それに、自分でいろいろやった方が本に愛着が湧くからですね」
──書籍への愛着。「紙媒体」というものに、やはりこだわりはあるのでしょうか。近年、電子書籍というものが注目されていますが。
「まだ自分の中で結論が出ていないんです。ただ、自分がやっていることがいくらすごくて自信があってネット上で話題になっても、一瞬で忘れられちゃうんですよね。昔、デスメタルをやっていて、ネット上でそこそこ話題になっていたんですが、どうも不完全燃焼だったんです。でも、ちゃんとCDになった時に初めて達成感を憶えたし、他人に伝えることができた。結局、一般の人でも認めてくれるものにするには、普通のCDとか本にして固形物として売り物にしなくては自己愛は満たされないんですね。だから電子書籍とかWeb媒体だと、それほど自分の創作意欲が刺激されないんじゃないでしょうか。もしかしたらそうではないという人もいるのかもしれないけれども」
──固形物でないとモチベーションを維持できない。
「電子書籍ってどこでも読めるとか、安いとか、読む人の利便性ばかり取り沙汰されるんですが、そこには作っている人の気持ちが抜け落ちていると思います。やっぱり作っている人の創作意欲、やりがいってのもあって、それが鈍ると多分素人のゴミみたいなのがはびこって、誰も見向きしなくなってしまう。ネットにはネットの美学とか、リアクションとか速報性があると思いますけど、私はやはり本にはネットにはない美点があるし、紙というメディアにこだわりがあります」
■文系オタクを作っていきたい
──濱崎さんが出版を通じて表現したいことって何なのでしょう?
パネルはご本人です。
「今、理系離れが進んでいるって言われていますけど、実際は文系離れも危機的な状況だと思っています。文系離れが国を滅ぼすって、本当に思うんですよ。みんな、マルクス主義も哲学も経済のことも案外分かっていなくて。アメリカの首都も分からないって人もいるじゃないですか。そうなってくると、この時代日本国内だけ完結できるわけでもなくて、やっぱり国際社会で通用しない。そういう基礎教養とかを高めていかないといけない。そうしないとものも考えなくなっていく。だから文系オタクをかっこよくプロデュースしていきたい。かっこいい文系オタクを作っていきたいんです」
──文系を再評価したい。
「例えば数学オリンピックで順位が下がったとか、スーパーコンピュータが何位だとかで理系は目に見えやすい形で表れているから、助成金だ、産業だってすぐにビジネスとかにも結びつけて”理系離れが~”ってキャンペーンされていたりするんですが、文系離れも相当激しいと思っています。日本人のIQが全体的に下がっていて、文系、理系両方馬鹿になっていっているのかもしれない。私が自分の職務として考えているのが、日本人の知性の低下をちょっと予防していくこと、だと思っています」
──知識を獲得していく楽しさ、というものを取り戻さないといけないということでしょうか。
「そうですね。Wikipedia的な、断片的な情報で充足しちゃっている人って意外と多いと思います。そこで満足しちゃって、それ以上知ろうと思わない。本って買った以上は最後まで読まないともったいないと思うじゃないですか。でもWebサイトとかだと、飽きれば読むのをやめちゃうし、表面的なものしか見ないっていうのが多いんじゃないかな。自分もそうなんですけどね。さらっと見るだけ(笑)」
──今後はどういう活動をしていきたいですか?
「ラジオに出たいし、テレビにも出たい。前はそうやってどんどん出ていくことがはしたないって思っていたんですよ。自己顕示欲と自己愛の塊で見苦しいから、って。だけど、社会評論社の宣伝になって、社会の好奇心とか知性を高められるなら、別にそれは自己愛でも何でもないんじゃないか。大人として振舞っていればいいんだって思うようになったんです」
(取材・文=有田シュン)
●はまざき・よしろう
社会評論社の変集者。父の仕事の関係で、幼少期をフィリピン・チュニジア・イギリスなどで過ごす。慶應大学法学部政治学科を卒業後、IT企業に就職するも性に合わず退職。その後、日本有数の左翼出版社・社会評論社に転職する。『超高層ビビル』『いんちきおもちゃ大図鑑』『ニセドイツ』など、数々のマニアックな本を手掛けている
・「ハマザキカク」最新刊
『即席麺サイクロペディア』(著:山本利夫 )
世界一の即席麺コレクターによるカップラーメン大全。懐かしいものから超ヘンテコリンなものまで1046個のカップ麺を収録。これを見ずにカップ麺の歴史は語れない!
定価:1785円/6月19日発売
●濱崎誉史朗フェア「Cool Ja本~世界で通用する日本本~」
日本の趣都、秋葉原で最大規模の書店という条件を活かし、ヨドバシカメラを訪れる外国人をターゲットに、日本が世界に誇れる本をおよそ100冊選び抜いた、「日本語が読めなくてもウケる本」フェア。普段、本を全く読まない、活字離れ著しい若者、特にオタクにも興味を持ってもらえるラインナップ。6月30日まで有隣堂ヨドバシAKIBA店にて絶賛開催中。
<http://www.shahyo.com/ext02/coolJapon.html>
濱崎さんのバイブル。
【関連記事】
「スナックはママのキャラが命!」 都築響一が覗いた”いちばん身近な天国”とは?
「感動もトラウマも、すべてここにある」”サブカル聖地”ロフトプラスワンの道標
「僕がやっていることは究極の無駄なのか?」世界中の奇妙なモノを集めた『奇界遺産』
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事