激白Wインタビュー『宇宙ショーへようこそ』のヒミツを語り尽くす(後編)
#アニメ #インタビュー
■テーマは友情と成長
──この作品のテーマはなんですか。
舛成 テーマは友情と成長ですね。友情に関しては、子どもたちのピュアな友情と、過去のいろんなモノを背負った大人たちの友情が描いてある。
──大人の話で言うと、人間いいことも悪いこともある。時には悪い人間になってしまうこともあるという、人生の難しいところまで描いてありますね。
舛成 たぶん映画をたくさんご覧になっている方には、今回表現している部分だけでそこまで汲みとっていただいていると思うんですよ。でも分からない人には、分からないと言われるレベルでしか描写していないんです。キャラクターの会話だけで納得させられるようなスパイスは効かせてあるんですが。
──そうしたちょっと分かりにくい大人の友情と、分かりやすい子どもの友情が交錯するわけですね。ポチが初めに子どもたちと出会う冒頭の田舎の場面は、匂い立つようにとてもリアルで驚かされました。どんな狙いがあるんでしょうか。
舛成 なんであそこまでリアルにやるかというと、基本的に絵空事だからなんですよ。でもそこで、子どもたちはリアルに宇宙を体験しているんだという方向に持って行きたいんですね。そうすると、冒頭の地球篇をリアルに描いて、この子どもたちは本当にこの村で生きているんだということを描いておかないといけない。そのあとに続くファンタジーが絵空事になってしまうので。
──おっしゃるように、宇宙に出て行くことでストーリーは飛躍するんですが、子どもたちの月世界体験に、初めての海外旅行的な意味合いを込めたことはありますか? 共感できるリアルな描写もありますが。
製作委員会
舛成 シナリオの段階から入っていますね。僕が最初からやりたいと言っていたのが「月でバイトする」ということ。子どもが初めて自力で働いて、初めて給料をもらう、という。給料をもらったあと、みんなが誇らしげな顔をしているんですよね。あそこが一番好きなシーンかもしれない(笑)。
──異文化交流と勤労体験と。
舛成 そうそう、ふたつ入っているっていう。
──そんな子どもたちの描き方がステロタイプじゃないなと思ったんですが。
石浜 実際に子どもたちひとりひとりのバックグラウンドとか、それまでその子たちが考えてきたことを、舛成さんに細かく訊いて進めていきました。服装や髪型も、こういうふうに生きてきたからいまこうなんだっていうのを、きちんと話し合い進めたんで、ステロタイプじゃないというニュアンスが出ているんだと思います。
舛成 最近の子どもたちの様子を見ていてびっくりしたのが、子どもが大人なんですよ。言ってることがびっくりするくらい大人なことがある。もう、なんか普通に愛の告白をしているようなガキンチョがいたりするわけですよ(笑)。
石浜 政治家に文句言ったりね。
舛成 そう。でも、よくよく突き詰めてみると、言っていることは子どもなんですけどね。パッパッと出てくるセリフのチョイスがびっくりするくらい大人な瞬間があって。周(あまね)はそれがポン、と出ちゃうんだけど、でも目の前のバッタには飛びつくんですよね(笑)。
──ここでちょっと変化球の質問なんですが、最近、非実在青少年問題が大きくなってきています。ややもすると問題視されるので、フェミニンな要素のある描写をどのくらいの濃度で抑えるのかというのも、難しかったんじゃないかと思うんですが。
石浜 そのキャラクターが持つ魅力と思えば、抑えるということではなく、魅力として前面に押し出そうという気合はありましたよ。それが仮にフェミニン……フェミニンにつながり得るものだとしても、あくまでキャラクターの持つ魅力、という描き方をしました。
舛成 ただ、そうは言っても、やはり全く無視をしていたというわけでもないです。夏紀は最初ミニスカートの設定だったんですが、これはダメだろうと。夏紀は何も気にしないで動いちゃう子なので、ショートパンツに変更しました。「私がかわいい」と自覚した上での絵作りだとマズイと思うんですよ。ただ、今回出てくる女の子の所作は、「私がかわいい」と思ってのことではないんですよね。たぶん倫子は気にしていると思うんですけど。
石浜 だから「決めポーズ」がないんですね。倫子だけがそれは解禁、ちょっとした決めポーズが唯一できるキャラクターとして描いています。
──でもそれも、現実の女の子が、ちょっと意図的にかわいこぶってみる、という範囲の調整ですよね。きちんとケレン味はあるんだけど、アニメ的な小芝居はさせていない。
舛成 『かみちゅ!』や『R.O.D』のときもそうなんですけど、画面を通して媚を売らない。本当にそこにいるように(ノンフィクション的に)描くんです。アイドル映画は、アイドルの子がこの役をやっている、というのがバレバレなことをやるじゃないですか。そうはしたくない、という。
よくできた映画は、ブサイクなんだけど、最後になるとかわいく思えてくる作り方をする。そういう感覚なんだと思うんですよ。わざとかわいく撮らなくても済む。結果、かわいくなっていく。
──話は尽きないんですが、お時間が来たようです。最後にこれから映画をご覧になるファンの方、これから観る気になってほしい読者のみなさんに、一言ずついただけますか。
石浜 死ぬ気で作っている映画で、絶対面白いはずなので、とにかく観れば大丈夫です。舛成さんを知らない人もぜひ来ていただきたいと思います。
舛成 人生に疲れている方に(笑)。
石浜 そんな効果が(笑)。
舛成 ちょっと自分探しをしたいと思っている人は、観ると新しい発見があるかもしれません。
石浜 キャッチコピーみたいですね。
舛成 本当、観た人の感想を聞くと、ひとりひとり感動するポイントが違うんですよ。オレはここが好きだったんだけど、この人はここが好きらしい。そして互いに相手が好きなところを否定する必要がない。そういう作りになっています。
──見どころがいっぱいですね。舛成さんは何回観て欲しいと思ってますか。
舛成 たくさん観てほしいけれども、実は一回でも十分なんですよ。一回観て、面白かったと心に残しておいてくれれば、それで十分ですね。「観てない」って言われるのが一番辛いですから(笑)。
(取材・文・写真=後藤勝)
●舛成孝二(ますなり・こうじ)
アニメーション映画監督、脚本家、演出家。島根県出身。OVA『R.O.D -READ OR DIE-』テレビシリーズ『R.O.D -THE TV-』を経てテレビシリーズ『かみちゅ!』を監督し、第9回(平成17年度)文化庁メディア芸術祭アニメ部門優秀賞を受賞。アニメ監督としての評価を確立した。映画の教養とセンスを基礎に据えた画面構成に定評がある。『宇宙ショーへようこそ』が初の劇場作品となる。
●石浜真史(いしはま・まさし)
アニメーター。東京都出身。OVA『R.O.D -READ OR DIE-』テレビシリーズ『R.O.D -THE TV-』でキャラクターデザインと作画監督を務め、舛成作品の一翼を担う存在となる。他作品に忙殺されて『かみちゅ!』ではオープニング制作にとどまったが、『宇宙ショーへようこそ』では再びキャラクターデザインと作画監督を担当。舛成監督を世界に担ぎ出すという誓いを守るべく必死に働き、作品を完成に導いた。とにかく巧い。
●『宇宙ショーへようこそ』
美しい自然に囲まれた村川村。唯一の小学校に通う生徒は全学年を合わせて5人だけだった。夏休み恒例の「子どもだけ合宿」で学校に集まった5人は、謎のミステリーサークルと、ケガを負い倒れている一匹の犬を見つける。しかし、人の言葉を解し、話しだす犬に子どもたちは仰天する。なんと犬は犬ではなく、惑星プラネット・ワンから来訪した犬型宇宙人のポチだったのだ。2100万光年のかなたから飛来したポチの事情を聞いた5人は、この出会いをきっかけに、人類史上最大の宇宙旅行へと旅立つことになる。過疎の村の子どもたちと一匹の宇宙人は、銀河で何と遭遇するのだろうか──。
6月26日(土)から新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほかで全国ロードショー。
<http://www.uchushow.net/>
R30?
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