激白Wインタビュー『宇宙ショーへようこそ』のヒミツを語り尽くす(前編)
#アニメ #インタビュー
A-1 Pictures第1回劇場作品にして、文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞作『かみちゅ!』のスタッフが結集した長編アニメーション『宇宙ショーへようこそ』(以下、『宇宙ショー』)。第60回ベルリン国際映画祭に招待されて話題を呼んだが、さらに試写を観た人々によって評価は高騰の一途。6月26日の公開を前に期待は募るばかりだ。
早くも大傑作の呼び声高い『宇宙ショー』のツボを、監督の舛成孝二、キャラクターデザイン・作画監督の石浜真史が語り尽くした。
ふたりの言霊を携えて劇場へと脚を運んでもらうべく、そのすべてを開陳します。
■企画の端緒
──5年をかけて完成しました。いまの率直なお気持ちを聴かせていただけますか。
舛成孝二監督(以下、舛成) いやもう、ほっとしました。よかった(笑)。本当によかった、完成したよって(笑)。みんな一時期、本当に「これ、どうなるんだろう」って思っていたから(笑)。とにかくコンテが終わるまで地獄でした。
石浜真史(以下、石浜) ベルリン国際映画祭に招待されて監督が本当に喜んでいたので、うれしかったですね。最初に場面設計の竹内志保さんと、「ふたりとも全てを捧げて舛成孝二を世界に担ぎ出そう」という誓いを立てたんです。それが果たせたかなと、安心できました。本当に世界に行ったんだ、と感動しました。
──男の約束ですね。舛成監督は石浜さんを、現在のようなお仲間として『R.O.D』の頃から捉えていたんですか?
製作委員会
舛成 そうですね。ちょうど『かみちゅ!』の頃は、(石浜は)ほかの作品が決まっていたので、OPだけ頼んだんです。で、ほかの仕事から(石原を)かっさらって、こちらで描かせてしまったという(笑)。
──石浜さんは舛成監督をどのようにご覧になっていましたか?
石浜 丹念にキャラクターを描く人だな、人望があって、才能のある人がたくさん集まるんだな、という印象がありましたね。でも実際に組んでみると、一度やると「疲れた」って言って逃げていく人が多いんだなということも感じました(笑)。少しスパンを置いてまた参加するという人が意外と多かった。
──つまり休養が必要なんですね。
舛成 そう(笑)。疲れる、しんどい、と。で、外の作品を味わうと「なんか物足りない」と言って戻ってきて。
──そういう手間暇かける作り方だと、結果を出さないと次がないんじゃないですか。『かみちゅ!』の成功があって『宇宙ショー』ができたのでは。
舛成 そうそうそう。『かみちゅ!』がありがたいことにうっかり賞を頂きまして、あれがなきゃ劇場作品はやってないですよ。「ちょっと僕ら賞もらったんで、劇場やってもいいですか」ぐらいの(調子で仕事を取ることができた)。本当は2年前に「実は、A-1 Pictures劇場用第一作でこういうのを作っていました」と言ってドーン! と披露しようと思っていたら、5年目まで来ちゃったという(笑)。
──(笑)。その間、石浜さんは拘束されていたんですか?
石浜 そうですね。それはしょうがない。
──なんか、すごく辛そうな顔してますよ。
石浜 そうでもないですよ。僕はたぶん、辛い思いをしていないほうだと思います。ちゃんと楽しめる立場にいたので。
舛成 今回、描ける(技術がある)人はたぶん、楽しめているんですよ。まだ引き出しの少ない子たちは本当、血反吐を吐いている感じでやっていました。今回は『かみちゅ!』とアプローチの仕方が違ったんですが、若い子は同じようにやって、全部、叩かれちゃった。でも最初、イメージボードを描いているときに『宇宙ショー』の描き方を覚えてもらって、本番に入るときには、うまくなっていきましたけどね。
■絵作りの謎
──『かみちゅ!』と『宇宙ショー』の絵作りのコンセプトの違いを教えていただけますか。
舛成 カメラのレンズのチョイスが決定的な違いとしてありますね。『かみちゅ!』は一眼の標準レンズで、がっちり撮っている。広角気味に撮って、フレーミングして、広角を抑えているぐらいの作り方。写真のレイアウトをそのまま使う、そこにキャラクターを立たせる、ということなので、「写真として」見たものを描けばいい、という描き方をしていたんですよ。
製作委員会
『宇宙ショー』にはそういう概念が一切なくて、周(あまね)の家なら周の家で、こういう絵が欲しいからこういうものを描いて、という要求をした。昔のアニメではよくやっていたことなんですけど、手前が広角気味なんだけど、奥が望遠みたいな。一画面でレンズがふたつあるっていう描き方をするんですよ。若い子はそういうアプローチを知らなかったりするので、戸惑うこともあるんですよね。
──なるほど。石浜さんはそうした絵作りのなかで、具体的にどんなお仕事をしていたんですか。
石浜 今回はものを発明するセクションにいるクリエイターの数が多かったので、最低限、絵自体をまとめるという仕事はしたつもりなんですが、逆にいうと、最低限にこだわってまとめた感じはあるかもしれないです。
舛成 基本はキャラクターをブラさない、ということをやってくれて。絵だけじゃなくて、動き方とか芝居も全部コントロールしてもらっているんですよ。でも実は、今回は絵のコントロールというものをやってもらっていない。面影(めんかげ)をつけるという以外はコントロールをせず、ごった煮でいろんなものがあっていい。そのなかで唯一ブレないようにやるのがキャラクターだけだった。
石浜 絵が似ている・似ていない、じゃないですね。そのキャラクターが性格に準じてちゃんと動いているか、というところだけに集中してやりました。
──なるほど。あと、これ言っちゃっていいのか分からないですが、湯浅政明さんのパートがまんま『マインド・ゲーム』な感じなんですけど、あれは劇中の”宇宙ショー”(宇宙で放送されている人気番組)だからということで、あえて違和感を演出したんですか。
舛成 そうです。僕がやっちゃうと、他のシーンの延長線上にしかならないのかなぁと。僕はどっちかというと固定カメラが多い人間なので、あんなふうにカメラを振ったり、キャラクターを動かすということが、パッと思いつかないんですよ。なので、ここは「オレじゃない誰か」というのだけが最初にあったんです(笑)。
石浜 面白いアプローチですよね。要は、(劇中の)宇宙ショーを撮っているのは舛成さんではないので、違う人を持ってこないと宇宙ショーにはならないというところから始まって。湯浅さんは本当、適任だったという。
舛成 だから基本、絵コンテは全部僕が描いているんだけど、唯一あそこはやっていないんですよ。僕の演出プランがまったく入っていない状態のフイルムがこの映画であそこだけなんですよね。
(後編へつづく/取材・文・写真=後藤勝)
●舛成孝二(ますなり・こうじ)
アニメーション映画監督、脚本家、演出家。島根県出身。OVA『R.O.D -READ OR DIE-』テレビシリーズ『R.O.D -THE TV-』を経てテレビシリーズ『かみちゅ!』を監督し、第9回(平成17年度)文化庁メディア芸術祭アニメ部門優秀賞を受賞。アニメ監督としての評価を確立した。映画の教養とセンスを基礎に据えた画面構成に定評がある。『宇宙ショーへようこそ』が初の劇場作品となる。
●石浜真史(いしはま・まさし)
アニメーター。東京都出身。OVA『R.O.D -READ OR DIE-』テレビシリーズ『R.O.D -THE TV-』でキャラクターデザインと作画監督を務め、舛成作品の一翼を担う存在となる。他作品に忙殺されて『かみちゅ!』ではオープニング制作にとどまったが、『宇宙ショーへようこそ』では再びキャラクターデザインと作画監督を担当。舛成監督を世界に担ぎ出すという誓いを守るべく必死に働き、作品を完成に導いた。とにかく巧い。
●『宇宙ショーへようこそ』
美しい自然に囲まれた村川村。唯一の小学校に通う生徒は全学年を合わせて5人だけだった。夏休み恒例の「子どもだけ合宿」で学校に集まった5人は、謎のミステリーサークルと、ケガを負い倒れている一匹の犬を見つける。しかし、人の言葉を解し、話しだす犬に子どもたちは仰天する。なんと犬は犬ではなく、惑星プラネット・ワンから来訪した犬型宇宙人のポチだったのだ。2100万光年のかなたから飛来したポチの事情を聞いた5人は、この出会いをきっかけに、人類史上最大の宇宙旅行へと旅立つことになる。過疎の村の子どもたちと一匹の宇宙人は、銀河で何と遭遇するのだろうか──。
6月26日(土)から新宿バルト9、シネ・リーブル池袋ほかで全国ロードショー。
<http://www.uchushow.net/>
R30?
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