『東京都北区赤羽』の作者と行く赤羽ディープスポットめぐり(前編)
#マンガ #サブカルチャー #突撃取材野郎 #清野とおる
珍奇なものをこよなく愛するライター・北村ヂンが、気になったことや場所にNGナシで体当たり取材していく【突撃取材野郎!】。第5回は、いまちょっとしたブームになっている赤羽に行ってきました。
■今、「赤羽」がきているらしい
珍奇なスポットや変わったお店などに行くのが趣味なので、普段からその手の情報を集めているのだが、そこで最近ちょいちょい話題に挙がってくるのが「赤羽」だ。
なんでもみんな、赤羽に住む奇人・変人などを紹介した漫画『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)を読んで赤羽に心奪われているらしい。でも、赤羽って名前は一応知ってはいるものの、わりと地味なイメージしか持ってないんだけど……。ホントにそんなに面白い街なんだろうか?
……というわけで、今回は『東京都北区赤羽』の作者・清野とおるさん直々にガイドしてもらいながら、赤羽のディープスポットをめぐってみたいと思う。
—-ボク、赤羽駅で降りたのが初めてなんじゃないかというくらい初心者なんで、よろしくお願いします。赤羽が東京都なのか埼玉県なのかすら認識してませんでしたから……。
「そういう人は多いかもしれませんね。北区自体、目立つ区ではありませんから」
確かに北区って存在感ない! それでも、ホントに誰からも忘れ去られてるくらい存在感のないさびれた街だったら、それはそれでディープな場所がいっぱいあったりしそうだけど、見たところ赤羽ってそこそこ栄えてるし、非常に中途半端な印象を受けるのだ。こんな街に面白スポットなんてあるのかな?
……と思ってたら、いきなり変なモノを発見。ビルの屋上にズドーンとそびえ立つ自由の女神。なんでこんなモノが!?
「たぶん、『サウナ→お風呂→入浴→ニューヨーク→自由の女神』ってことじゃないかと……」
—-は、はぁ〜。
やっぱりちょっこし変ね、赤羽。オラ、ワクワクしてきたぞ!
■『美味しんぼ』は絶対にうそつかない!
赤羽ディープ・ツアー。さっそく連れてきてもらったのはこの豆腐屋さん。
—-これは……。
看板にとって最も大切な要素である”店名”以上にでっかく『美味しんぼ』のロゴ&イラストが(しかもど真ん中に)。業種とは一切関係なく「カワイイやろ?」ってことで、デッサンの狂ったミッキーやドラえもんを看板にデカデカと描いちゃってるお店って時々あるけど、コレもそういうことなのかな!?
「ここは『美味しんぼ』に登場したこともある豆腐屋さんなんですよ」
ああーっ、そう言われてみればあったあった! アメリカから来た料理研究家が、大量生産の豆腐に文句付けて……みたいな話ね(『美味しんぼ・7巻』(小学館)収録「大豆とにがり」)。アレに出てきた手作り豆腐の店って実在するんだ。
それにしても、掲載された雑誌の切り抜きを貼り出している店はよくあるけど、漫画に紹介されたからって看板ごと変えちゃうなんて。「こだわりの天然豆腐の店」という素朴で実直なイメージが、この美味しんぼ看板で台無しになっちゃってるような……。
さらに店の品格をズズーンと落としちゃっているのが、店先にところせましと貼りまくられた貼り紙。これが、商品のラインナップあたりがギッシリと書かれているのならそれほど危険性を感じないけど、思いっきりエモーショナルな店主からのメッセージが込められた貼り紙なんで、なんともはや……。
原作者・雁屋哲の肉親ですら、ここまで盲信してないと思うよ。
こんなキャラの立ちすぎな豆腐屋さん、どんな濃い人がやっているのかと思いきや……。
このおばちゃんがまたメチャクチャ気前がいい。天然水&国産大豆で作られた豆腐や豆乳を「飲みねえ食いねえ」状態でバンバン出してきてくれるのだ。もちろんお金は受け取ってくれない。「私はどうせもう先は長くないんだから、お金なんていいのヨー」って、商売成り立ってるのかしら、このお店。
肝心の味は、こだわって作ってるだけあってさすがにスゴイ。豆腐も豆乳もとにかく超豆臭くて濃厚な味! ツルンと滑らかな……という豆腐のイメージからはかけ離れた、野性味あふれる豆腐なので好みは分かれるかもしれないけど、コレが「本物の豆腐」ってヤツなんだろう。『美味しんぼ』に書いてあるんだから間違いない!
しかし、いずれにせよ『美味しんぼ』の看板や貼り紙を外してフツーに営業した方が繁盛すると思うけどな……。
■段ボールハウス乱立公園
続いてやって来たのは、赤羽のセントラルパークこと「赤羽公園」。
周りを団地に囲まれ、児童館や図書館などの公共施設からも近い。緑も多いし、近隣に住む人にとっては嬉しい環境の公園なのだが……。
非常に残念なことに、ものすごい量の段ボールハウスが建ち並んでいるのだ。
家があるということは、当然住人も。平日の真っ昼間なのに寝て、酒飲んで、競馬の予想して……。本当の自由ってこういうことだよね。
タバコの吸い殻を注意する前に、もっと色々と注意すべきことがあるんじゃなかろうか、という貼り紙。段ボールハウスが燃えないように、ホームレスがこの貼り紙を書いたんじゃないかという気もする。
「ここの段ボールハウスは、公園内の施設を上手く利用して建ててるんですよ」
塀に立てかけたり、花壇を利用したり、防水対策を施してたりもして、他ではあまり見かけない、本格派の段ボールハウスが多いのだ。仮の宿というよりは、 ここに腰を落ち着けて住みつくつもりだね! ……って感じ。
普通、これだけホームレスが住みついている公園だったら、あまり子どもは近づかないように……みたいな雰囲気になりそうなモンですが、ここ赤羽では意外とホームレスと近隣の住人との折り合いがついているようで、お互いの領域を尊重しあっているというか、見て見ぬ振りをしているというか……。まあ、いいんだか悪いんだかだけどねぇ。
(後編に続く/文・写真・イラスト=北村ヂン)
■せいの・とおる
1980年東京都板橋区生まれ。98年「週刊ヤングマガジン」に掲載された「アニキの季節」でマンガ家デビュー。主な著書に、『東京都北区赤羽』1~4巻(Bbmfマガジン )、『清野とおる漫画短変集 ガードレールと少女』(彩図社)『バカ男子』(イースト・プレス)がある。
「清野ブログ」<http://usurabaka.exblog.jp/>
東京都北区赤羽 4
Bbmfマガジン刊/900円
東京都民にも埼玉県民にも見放された空間ポケット・赤羽。この赤羽に住む漫画家・清野とおるが趣味の散歩と尾行で遭遇した赤羽住民との不気味で愉快なリアルな日常を漫画化。帯には同じく赤羽在住の林家ペー・パー子氏の直筆コメント。携帯コミックサイト「ケータイ★まんが王国」にて連載中。1~3巻も好評発売中。
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