「週刊現代」が徹底追及 鳩山首相の母からの資金提供は「贈与」じゃない!
#雑誌 #出版 #元木昌彦 #週刊誌スクープ大賞
●第34回(2月24日~3月1日発売号より)
第1位
「鳩山さんの『巨額脱税』を国税に聞いてみた」(「週刊現代」3月13日号)
第2位
「知の巨人立花隆氏に問う ジャーナリスト上杉隆+本誌取材班」(「週刊朝日」3月12日号)
第3位
「『貧困患者』を手慰み手術で冥土に運んだ奈良・山本病院『猟奇ドクター』」(「週刊新潮」3月4日号)
次点
「映画『BOX-袴田事件 命とは』」(「週刊大衆」3月15日号)
「週刊大衆」や「アサヒ芸能」は、他誌に比べて断然、ヤクザ情報に強い。だから「大衆」の「稲川会会長急逝の激震!」のタイトルにひかれて買ってみたが、この記事は羊頭狗肉だった。だが、パラパラめくるうちに、後藤忠正元後藤組組長が、高橋伴明監督撮影中の映画『BOX-袴田事件 命とは』の現場を訪れたというグラビア記事が目に入った。
袴田事件とは、66年に静岡県清水市(現・静岡市清水区)で、味噌製造会社専務一家が殺され、犯人として元プロボクサーの袴田巌氏が逮捕された事件である。現在、死刑が確定した袴田死刑囚だが、一審から一貫して無罪を主張し、いまも冤罪だと訴えている。
この事件で一審の裁判官を務めた熊本典道判事は、一人だけ袴田は無罪であると主張したが、退けられてしまった。その熊本氏を主人公にした映画だという。こうした映画を撮影していたことはもちろん、企画者が忠叡師(これは得度名で、武闘派と恐れられた後藤組元組長)だと初めて知った。
残念ながら、わずか2ページのグラビア記事なので、元後藤組組長がどうしてこの映画を企画したのか、この映画の主題は、袴田死刑囚が冤罪であることを訴えることなのか、記事では触れられていない。そこを読みたかったのに。
世にとんでもない医者は数々いるが、この山本文夫という医者は、山崎豊子の小説「白い巨塔」のモデルになった名門・大阪大学医学部出身なのに、あきれ果てた輩である。
生活保護受給者を集めて入院させ、不要な手術を繰り返し、診療報酬を不正受給していただけではなく、一度も行ったことのない肝臓手術を自ら執刀し、患者を死なせてしまっていたのだ。
昨年7月に詐欺容疑で逮捕され、今年の2月6日に業務上過失致死で再逮捕された。
この山本病院は、手術回数の多さは有名だったらしく、数年前に「週刊朝日」の「いい病院・心臓病編」で紹介されていた。「山本はそれが余程嬉しかったらしく、記事のコピーを病院の待合室にはったり患者に配ったりしていた」(新潮)というから、「朝日」編集部も真っ青だろう。
今回、再び逮捕された山本は、こううそぶいているという。「病院は死ぬところ。患者も僕も運が悪かった」。医は仁術などというつもりはないが、医者までもが貧困ビジネスに手を出すとは末世を象徴するような事件である。
小沢対検察をめぐる戦争は、週刊誌をも巻き込んで、まだまだ収まりそうにない。今週の「朝日」は、「現代」を中心に小沢批判を執拗に続ける”知の巨人”立花隆氏に噛みついた。
事の発端は、「朝日」の2月12日号で、検察が石川知裕衆院議員の女性秘書を、約10時間にも及ぶ「監禁・恫喝」的な取り調べをしたと、上杉氏が書いたことに、立花氏が、講談社の「G2」ウェブ版で「検察憎しの立場に立つ一部マスコミにバカバカしい批判(中略)を許してしまうことになる」と批判したことによる。
上杉氏は、健全なジャーナリズムとは、公権力に対して監視を怠らないことであり、小沢も権力だが、検察のほうこそが最強の権力なのだから、批判するのが当然だとする。
また、立花氏が、取材現場に足を運ばず、想像を逞しくして過去の事例を持ち出し、その上で類推解釈しているだけではないかと批判する。
立花氏が、しばらく前に、出所不明のインターネット情報を基に、ライブドア元社長の堀江貴文氏が、暴力団と密接な関係を持ち、マネーロンダリングに関与していたという記事をウェブサイトに書き、堀江氏から名誉毀損で訴えられ、敗訴したことを取りあげ、氏は、自ら取材することなく、2次、3次情報に頼り過ぎるために失敗を犯すのだとバッサリ斬ってみせる。
最後に上杉氏は、「立花氏には、その偉大な足跡を穢す前に、小沢氏同様、自ら進んで退くことを心から祈る」と結んでいる。
2月26日に文京区民センターで、検察対小沢についてのシンポジウムがあって、私もパネリストとして上杉さんたちと登壇した。そこで彼が、「元木さん、次の『朝日』に立花さんの批判を書くんです。みんなが止めろ止めろという。そんなことをしたら賞(大宅ノンフィクション賞や講談社ノンフィクション賞)が取れなくなるっていうんだけど、そんな賞なんてほしくない」と話してくれた。
私は立花さんとも古くからのお付き合いだ。メディア間同士の、こうした論争は大いにやるべきだと思うが、両者とも、小沢一郎幹事長が表舞台から消えるべきだという思いは同じようだ。
今週の第1位は、今更だと思うかもしれないが、鳩山由紀夫首相のカネの問題についての現代の記事である。
なぜこれを選んだのか? 読者のみなさんは「ベストカー」(講談社ビーシー/旧・三推社)というクルマ情報誌を読んだことがあるだろうか。このジャンルではダントツ1位の隔週刊誌だが、そのなかに「アポなしインタビュー」という名物連載がある。これは、読者が素朴に疑問に思っていることを、編集部が、関係する部署に電話をかけ、インタビューする。質問は、クルマ関係だけではなく、政治から経済の問題にまで及ぶのだが、聞き手がほとんど知識がないため、素人が聞くようなことを一生懸命聞き、電話に出た相手が面倒くさがったり、意外にも懇切丁寧に教えてくれたりと、そのやり取りがすこぶるおもしろい。
この「現代」の記事も、鳩山首相の母親からの「子ども手当」問題に疑問を持ち続け、なぜ「脱税」にならないのかを素朴に取材しているところが気に入った。
鳩山首相は、修正申告を行って約6億円の贈与税を納付したが、札幌国税局が「不正な税逃れではなかった」と認定すると、相続税法の規定によって、02年夏~03年分は時効が成立するから、時効分の約1億3,500万円が「払い過ぎ」だとして還付されるそうだ。また、贈与というのはおかしいと、浦野広明立正大学法学部教授にこう言わせている。
「贈与というのは民法549条で規定された行為ですが、『これを差し上げます』という出し手と、『いただきます』という受け手との間の契約です。しかし鳩山首相は母親からの資金提供を『知らなかった』と言っている。つまり、首相と母親との間で、贈与は成立しないのです。だから本来、鳩山首相は提供された資金を『雑所得』とし、所得税・住民税を支払わなければなりません」
そうすると、浦野教授が試算したところ、この他に延滞金、重加算税、罰金が加算され15億円以上を納めなくてはならないというのだ。
「現代」は、国税庁の広報担当者に、なぜ、国民からは問答無用で取り立てるのに、首相には手を出そうとしないのかを問いただしている。当然ながら、国税は答えないのだが、こうした素朴な国民の疑問に対して、読者に代わって追及していく姿勢こそ、新聞、テレビにできない、週刊誌がやるべきこのなのだ。同じ特集のなかの「『子ども手当』で親子関係はぶっ壊れる」もお薦め。
(文=元木昌彦)
●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。
【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか
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