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妖怪小説家・田辺青蛙の「妖しき本棚」第4回

「グッチャネでシコッてくれ」 河童に脳みそをかき回される『粘膜人間』

toumei.jpg『粘膜人間』(著:飴村行/角川グループ
パブリッシング)

「日本ホラー大賞短編賞」受賞の小説家・田辺青蛙によるオススメブックレビュー。

 今年もブックレビュー「怪しき本棚」をよろしくお願い申し上げます。今後もさまざまな本をグロやエロ等を主体に、ご紹介していきたいと思っております。

 「今年最強の新人作家」と書かれた不気味な表紙の本を書店で目撃された方も多いのではないのでしょうか? 今回は飴村行さんの『粘膜人間』についてお話したいと思います。

 ちなみに今回何故、この本を取り上げようかと思ったかというと、ホラー・怪談作家である平山夢明さん、松村進吉さん、真藤順丈さんが3人が共同運営しているブログ「独白する三兄弟が超怖い」、そこでとある1文を目にしたからに他なりません。

 「姫グッチャネ始め」松村進吉(怪談作家)

 グッチャネ……。評論家の杉江松恋さんをはじめとする、多くの作家や批評家たちを魅了した単語であります。意味を本文から引用すると、『女の股ぐら泉に男のマラボウを入れてソクソクすることだっ』。脳みそのどの辺りを押すとこういう発想が出てくるのでしょうか?

 まあ、そんなこんなで今年僕が初めて手に取って読んだ本は『粘膜人間』でありました。

 何度読んでも変わらぬ、あまりにも面白さに妹(女子大生:21歳)に薦めてみたのですが、表紙がキモイし読んでる時のお姉ちゃんの顔もキモイと一蹴されてしまいました。布教活動失敗ですね。今度手作りのファンシーカバーでもかけて、妹の部屋にそっと忍ばせてみようかと思います。

 ここまで読んでもどんな小説かはイマイチ分かりにくいかと思うので、あらすじと衝撃を受けたシーンのごく一部をご紹介したいと思います。

 長身で筋肉ムキムキの弟、雷太は夏休みが終わった途端に暴力的になり、父親の鼻を潰し、鼓膜と頬を破ります。このままでは自分達の命が危ういということで、雷太の2人の兄は弟殺しを蛇腹沼の河童に依頼することに決めます。河童は弟・雷太を殺すことを引き受けますが、その報酬として人間の女とグッチャネをしたいと2人に申し出るのですが……。

 ちなみに最初の数ページからして凄いんですよ。

 弟を殺すために、ベカヤンという脱走軍人と思わしき男に河童の情報を要求するのですが、その見返りの要求がいきなりシコってくれですからね。この小説のトンデモなさが少しでも伝わりましたでしょうか? 最初の数ページで読者の好き嫌いがキッパリと分かれますが、好きな人はもう河童に脳みそかき回されても好いや……ってくらいに嵌(はま)ります。

 さて、2年前の15回角川ホラー小説大賞、授賞式でのことです。15回は大賞に『庵堂三兄弟』の真藤順丈さん、長編賞に『粘膜人間』の飴村行さん、短編賞は、『トンコ』の雀野日名子さんと僕が受賞者でした。作家のパーティーというもんはこういう世界であったかと、豪華なシャンデリアやらやお水系の美女軍団を横目に見つつうろうろしていると、編集者の方が声をかけてきました。

「長編賞の飴村行さんがいらっしゃっているので、ご紹介します」

「……」

 正直言って、最初飴村行さんとは会いたくないと思っていました。だって、グッチャネでシコってくれで、「ベカヤンのをシコっている時どんな気分だった?」とか、キンタマの化け物や、楽しそうに父親をボコる話を書いている作家さんです。いや、小説と作家は別物だという意見もありますし、ミステリー作家なんか殺人の話ばっかり書いてるけど殺人者じゃないだろという話もありますが、なんっていうか……おっかなかったんですよ。こんな作品を書く、飴村行という作家が僕のチンケな想像力ではうまくイメージすることが出来なかったのです。

 とにかく、会うまでは怖い人だろうとただ思っていました。だけど、初対面の印象でそれは裏切られましたね。

 声のトーンの柔らかい、メガネとスーツの優しそうな国語教師のようなルックスの男性。趣味は将棋か釣りで、庭ではヒヤシンスを育ててる、そんな雰囲気の方でした。そんな説明だとよく解らないという人は、Googleの画像検索で「飴村行」と入力してみてください。飴村さんの編集担当者に、素直に作品の印象から怖い人だと思ってましたと伝えると、編集担当の方も作中人物のようなおっかない人が角川書店に来るんじゃないかと冷や冷やしたと笑って教えてくれました。

 それから1年近くが経ち、飴村行さんは『粘膜人間』よりも更に衝撃的な『粘膜蜥蜴』(同)を昨年の秋に出版されました。この作品も、もうどっから読んでも凄い! を連発したくなるような超・問題作なのでいつかここでご紹介するかもしれません。

 また今年の春には粘膜シリーズの最新作『粘膜兄弟』(同)を発売予定だそうです。あらすじを先日こっそりと聞かせてもらったのですが、またいい感じに鬼畜で狂いまくった話でした。

 で、最後に私事で恐縮でございますが、僕のデビュー作『生き屏風』(同)の続編『魂追い』(同)も発売中です。『狼と香辛料』等で大活躍中の文倉十さんに、表紙のイラストを描いていただきました。妖怪なんかがわらわら出てくる話となっていますので、そういうのがお好きでしたら、どうぞよろしくお願い申し上げます。
(文=田辺青蛙)

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たなべ・せいあ
「小説すばる」(集英社)「幽」(メディアファクトリー)、WEBマガジン『ポプラビーチ』などで妖怪や怪談に関する記事を担当。2008年、『生き屏風』(角川書店 )で第15回日本ホラー小説大賞を受賞。綾波レイのコスプレで授賞式に挑む。著書の『生き屏風』、共著に『てのひら怪談』(ポプラ社)シリーズ。12月25日に2冊目の書き下ろしホラー小説、『魂追い』(角川書店)が出版予定。

粘膜人間

ドロッドロでぐちゃっぐちゃ

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■「妖しき本棚」INDEX
【第3回】なつかしく、おそろしく、死と欲望の詰まった”岡山”を読む『魔羅節』
【第2回】“大熊、人を喰ふ”史上最悪の熊害を描き出すドキュメンタリー『羆嵐』
【第1回】3本指、片輪車……封印された甘美なる”タブー”の世界『封印漫画大全』

最終更新:2010/01/20 19:13
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