“ダメカワイイ” 愛すべき東ドイツ製トンデモ商品の数々『ニセドイツ』
#本 #サブカルチャー
アディダスのスニーカー、ライカのカメラ、ダイムラーのベンツ――ぼくらは普段、多くのドイツ製工業製品に囲まれ、暮している。ベルリンの壁が崩壊し、東西ドイツが統一されてから今年で20年を迎える。東ドイツというと、浦沢直樹『MONSTER』(小学館)や、第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した映画『善き人のためのソナタ』など、陰々鬱々としたマッドな共産主義国家、といったイメージが強いが、実際のところどうだったのだろう?
この『ニセドイツ1 ≒東ドイツ製工業品』『ニセドイツ2 ≒東ドイツ製生活用品』は、ベルリン在住のドイツ文化研究者でありフリーライターの伸井太一(のびい・たいち)氏が、旧・東ドイツのヘンテコな工業製品・生活用品についてまとめた本だ。商品から文化、政治的背景まで詳細に記され、いたるところダジャレが満載、ユーモアたっぷりの内容だ。ドイツ国旗を模した黄色と赤の表紙には、東ドイツ製自動車「トラバント」がカッコよく映っている。”ニセドイツ”とは、”贋”ではなく”似せ”の意。経済的・技術的に伸び悩み、自国のアイデンティティーに伸び悩む東ドイツ製品の似せ性である、と伸井氏は語る。
代表的な例が、東ドイツが誇る共産主義車「トラバント」だ。「トラビ」というかわいらしい愛称で親しまれ、「屋根つき点火プラグ」「プラスチック製爆撃機」「走るダンボール」という不名誉なニックネームをつけられたこの車は、なんとプラスチック製ボディー。すさまじい騒音を立て、排気ガスを撒き散らし、ガタガタと揺れる乗り心地は最悪。1975年にはワースト・カー・オブ・ザ・イヤーにまで選ばれる代物であった。おまけに、共産主義政策により自由に生産・流通が出来ず、注文してから手元に届くのに10年以上かかる有様であったという。他にも、「肛門まで赤く染める」トイレットペーパーや「ソーセージを喉の奥まで突っ込んだような」痛みが走る歯磨き粉など生活用品も、東独印の品質は◎。
これらポンコツ工業製品・トンデモ生活用品の数々が、パズルの欠片のように東ドイツという国の実情を浮かびあがらせてくれる。破綻しているが、そんな国でも41年もの間、人々が生活していたのだ。いまだに根強い”東独ファン”も多く存在する。「統制、管理」「追いつけ追い越せ」「清く貧しく美しく」といった感情がうず巻く東ドイツ製品の中に、そこはかとないダメカワイさ、妖しさ、潔さを見るのだ。この本を読んで、今は亡き国家「ドイツ民主共和国(=東ドイツ)」の魅惑の世界を堪能しよう。
(文=平野遼)
●伸井太一(のびい・たいち)
京都府生まれ。北海道大学文学部卒。東京大学大学院修士課程修了。修士(学術)。専門はドイツ現代史。2006~09年までベルリン在住。現在、研究者兼フリーライター(ドイツ文化・歴史、サブカルチャーなど)。
共産趣味者もミーハーも。
胸キュン
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