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【元木昌彦の「週刊誌スクープ大賞」第19回】

「被害者のプライバシーを守れ」週刊誌に課せられた”実名報道”より重い問題

motoki1109.jpg「週刊文春」11月12日号

●第19回(11月3日~11月9日発売号より)

第1位
「死を招く豊満『婚カツ』詐欺師 新聞・テレビが報じない木嶋佳苗34歳の『正体』」(「週刊文春」11月12日号)

第2位
「鳥取男性6人が次々不審死……35歳の元ホステスと事故死読売記者との接点」(「週刊朝日」11月20日号)

第3位
「新しい世界が始まっている 80歳からのSEX」(「週刊現代」11月21日号)

 先ほど、酒井法子被告に、東京地裁(村山浩昭裁判官)は懲役1年6カ月、執行猶予3年(求刑懲役1年6カ月)の有罪判決を言い渡した。予想通り執行猶予がつき、今後、夫の高相祐一被告と離婚し、芸能界を離れて母親のために介護を学びたいと述べているようだが、芸能界復帰工作も、水面下で動き始めることになるはずだ。覚せい剤で逮捕された芸能人の再犯率は7割近いという。その高い壁を乗り越え、3年の執行猶予期間を終えたら、復帰してもいいかなと、個人的には思うが、こんなことをいうと「のりピー芸能界復帰絶対反対」の梨元勝さんに叱られるだろうな。

 さて、SEX記事に活路を見いだそうとしている「現代」がやってくれました。高齢者でも後期高齢者でもなく、傘寿(さんじゅ=数えの80歳)の性生活を特集している。高齢者のSEX事情を調査した日本性科学会「セクシュアリティ研究会」のデータによれば、配偶者と月1回以上のSEXをしている比率は、男性が60代前半で62%(女性42%)、60代後半で38%(女性35%)、70代で26%(女性24%)もあるというのだ。

 日本の高齢者は、草食系の20代、30代の若者たち顔負けの「性食系」のようなのだ。

 だいぶ前に、本連載で某町のソープランド街に、年金が出た日、高齢者が挙って押しかけると書いたことがある。年々、老人ホームなどでの色恋沙汰から、けが人や死人が出る事件が増えてきてもいる。

 文中で東京・大田区のラブホテルの従業員はこう話している。「お客の半数は男性の高齢者です。特に平日の昼間は多い」。東京・池袋の高級ソープランドで働いている29歳の女性は、「60代のお客はザラ」「70代の常連客が数人」「80代が2人いる」といっている。

 江戸の俳人・小林一茶は、老齢期にめとった24歳下の妻と「一日五交」──日に5回も愛し合ったと日記に書いているという。「現代」編集部の諸君! これからは高齢者にやさしい風俗や、高齢者専用のソープやデリヘルの実名紹介をどんどんしてくれないかね。そうすれば、結婚したいと甘言を用いて近づいてくる詐欺女に騙されず、殺されずに性的欲求を満たしたいと願う高齢者が挙って読むと思うのだが。

 第2位は、鳥取で起きた6人もの不審死事件。東京で起きた「事件」と同じように、亡くなった男性3人の遺体から睡眠導入剤が検出さている。疑惑を持たれている「豊満女」は、すでに詐欺容疑で逮捕されているが、身長150センチ、LLサイズの35歳は、スナックに勤め、取っかえ引っかえ男を渡り歩いてきたのだという。彼女が付き合った中には、読売新聞の敏腕記者もいて、彼女のために多額の借金をし、特急列車に轢かれて死んでいる。鳥取県警の刑事も、彼女と付き合い、首を吊って死んでいる。こちらも警察の捜査力が試されている。

 第1位は「文春」。先週木曜日の朝刊に載った「文春」の広告を見て「あれっ」と思った人は多かったと思う。「死を招く豊満『婚カツ』詐欺師 新聞・テレビが報じない○○○○34歳の『正体』」。この○には木嶋佳苗と入るのだが、どうしてこうなったのか。

 木嶋被告(既に詐欺罪で逮捕・起訴されている)と交際していた6人の男たちが、彼女にカネを貢いだあげく不審な死を遂げていることで、彼女が、睡眠導入剤を盛って、自殺に見せかけて殺したのではないかという「推測」「憶測」「邪推」報道がまき散らされ、日本中が大騒ぎしている。

「新潮」は先々週号で彼女の実名と写真を公表し、翌日10月30日の「日刊ゲンダイ」でも実名報道をしているが、新聞・テレビは、木嶋被告の「殺人疑惑」については、警察の捜査が進んでいないことを理由に、いまだに匿名である。

 そこで、「文春」の目論み通り(?)、新聞側の要請で、名前の部分を○にしたのだろう。

 確かに、睡眠導入剤を医者からもらっていたこと、男性の一人が練炭自殺する前に、彼女が多くの練炭を購入していたこと、付き合っていた男性たちの口座から多額の現金を引き出していたことなどの状況証拠から考えれば、疑惑ではなく、限りなく灰色に近いようにも思える。だが、彼女が犯人だと決めつけるには、状況証拠だけで物的証拠が少なく、警察もかなり慎重に捜査しているようだ。

 こうしたことを踏まえて、彼女の実名報道は是か非か。

 先週金曜日の夜、TBSラジオの「ACCESS」という番組に出たときも、このことが問題になった。この番組も彼女の実名は出していない。

 私は、彼女は結婚詐欺で逮捕・起訴されているのだから、実名報道は許されると考えるが、男性たちの死が彼女の仕業だと断定するような報道の仕方は、当然ながら慎重であるべきだろうと話した。

 また、こうもいった。新聞やテレビが実名報道に踏み切らないのは、殺人容疑で彼女が逮捕・起訴されたら、裁判員制度が適用される裁判になる可能性があるからだと思う。新聞・テレビは、裁判員に予断を与える報道は慎むと最高裁に「お約束」してしまったから、慎重すぎると思えるほど慎重なのではないか。

 かつての「ロス疑惑」報道のように、週刊誌・テレビが連日のように「妻に保険金をかけて殺させた希代の悪党」と囃したて、警察も世論に押され三浦和義氏を逮捕したが、「妻殺し」では立件できなかった。その後、新聞・雑誌・テレビは三浦氏から名誉毀損で訴えられ、ほとんどの社が多額の賠償金や示談金を払うことになった。今回も、彼女が殺人で逮捕・起訴されなかったら、人権派弁護士が彼女側についてメディアを訴え、多額の賠償金を払うことになるかもしれない。そのことを恐れているのも事実であろう。

 では週刊誌はどうか。出版社系週刊誌は実名報道、新聞社系の「AERA」と「サンデー毎日」は匿名だが、「朝日」だけは本社の意向に逆らって、鳥取の事件の容疑者も実名報道である。それもあって「朝日」の記事を2位に推した。

 新聞・テレビがやらないことを週刊誌がやる。その意気や良しだが、気になるのは、実名報道よりも、被害者かもしれないと「推測」される人たちのプライバシーの書き方である。

 殺害された千葉大女子大生のキャバクラ勤めの過去は、犯人と結びつく手がかりがあるから報道するという大義名分は立つように思う。だが、結婚詐欺に遭い、いまのところ自殺か他殺かわからないが、命を落とした人たちについての記述に「書き過ぎではないか」という疑問のあるものが多く見られる。

 ここでは紙幅の関係で具体的な箇所は挙げない。以前から指摘されていることだが、この国のメディアは、加害者よりも、時として被害者のプライバシーを暴き立てることに熱心になることがある。

 これは、私が週刊誌の現役時代、同じように加害者よりも守られるべき被害者のプライバシーを書き立ててきたことからの強い反省である。今回もメディアスクラムと批判される報道合戦の中で、どこまで書いていいのか、書いてはいけないのはどこなのか、メディア側にいる人間は常に客観的に自らを省みて、チェックするべきだろう。難しいことだが。
(文=元木昌彦)

motokikinnei.jpg撮影/佃太平

●元木昌彦(もとき・まさひこ)
1945年11月生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社入社。90年より「FRIDAY」編集長、92年から97年まで「週刊現代」編集長。99年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長を経て、06年講談社退社。07年2月から08年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(2006年8月28日創刊)で、編集長、代表取締役社長を務める。現「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催、編集プロデュースの他に、上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで教鞭を執る。

【著書】
編著「編集者の学校」(編著/講談社/01年)、「日本のルールはすべて編集の現場に詰まっていた」(夏目書房/03年)、「週刊誌編集長」(展望社/06年)、「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社/08年)、「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス/08年)、「競馬必勝放浪記」(祥伝社/09年)、「新版・編集者の学校」(講談社/09年)「週刊誌は死なず」(朝日新聞社/09年)ほか

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最終更新:2009/11/09 21:00
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