ぬれせんべいで3億円! でも銚子電鉄が憂鬱な訳
#ビジネス #地域
「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」
06年11月、車両検査費用が捻出できず廃線危機に立たされた銚子電鉄は、こんな一文とともに”副業”として製造するぬれせんべいの購入をホームページを通じて呼びかけた。これがネットやメディアで話題となり注文が殺到、”銚電ブーム”が訪れた。有志による「銚子電鉄サポーターズ」から基金約1600万円も寄贈された。
あれから2年半、経営状況はどうなっただろうか――。
「背水の陣です」
鉄道部次長の向後功作氏からそんな言葉が漏れた。
事業報告書を見ると、07年度の営業損益は約9812万円の黒字を計上。しかし、08年度は約960万円の黒字にとどまった。しかも、よく見ると鉄道事業は約1億5000万円の収入で約8741万円の赤字(08年度)。ぬれせんべいやたいやきなどの副業収入約4億1200万円から経費を引いた利益約9700万円で、鉄道業の赤字を補う形となっている。
06年に起きた前社長の横領事件の影響で銀行の融資や自治体の補助金はストップしたまま。再開の見込みはない。
鉄道はとにかく金がかかる。銚子電鉄はたった6.4㎞の運行ながら、枕木の交換など安全対策工事費だけで毎年1億円程度必要だ。戦前戦後に製造された”レトロ”な車両も5両のうち最低3両は早急に更新しなければならない。
「通常、代替更新だけで1両で1億円近くかかります。幸い他社から格安で譲っていただけることになったんですが、輸送費や検査費などはかかる。しかも、年内に新車両を導入しなければダイヤを維持できない。瀬戸際なんです」
銚子電鉄の苦しい季節はまだ続いていた。
「増収策をいろいろと準備しています。たとえば、合格祈願の『上り銚子ゆき』切符。昨年は1駅のみの販売で約半年で1万枚完売いたしました。今年は全駅で発売する予定です。また、新車両の工事費、輸送費などを債券化して一口10万円でオーナーを募集し、特典として1年間の優待券を発行することで現金の償還に代えさせていただきます。もう一つは、新車両の命名権を1編成300万円で売り出します。経営が苦しいと”あきらめムード”になり、打ち出す企画も小さくなりがちですが、苦しいからこそにぎやかに、大きく話題づくりをしたいと思っています」
実際、同社も2~3年前まであきらめかけていた。だが、ブーム以降、銚子電鉄を盛り上げるための持ち込み企画も多々あり、外部から刺激を受けることで前向きになれたという。
だが、ネットでブームに火が着いた余波か、向後氏やサポーターズを攻撃するサイトもある。曰く「向後氏の著書『がんばれ! 銚子電鉄』の印税は向後氏個人に支払われている」「向後氏は社員教育を怠っている」「サポーターズは千葉ロッテマリーンズ(当時)の小林雅英投手からの寄付金を隠匿している」とのこと。それでも、向後氏は努めて前向きだ。
「印税については私が受け取っていることは事実です。あの本は町づくりに関する私の見解をまとめた本なので。その他は事実無根。でも、ネットにお世話になったのだから、今後ともネットのみなさんやこの間ご支援いただいたみなさんとは、仲良く付き合っていきたい」
地域再生を専門とする経営コンサルタントの水津陽子さんは次のように述べる。
「副業で4億円、そのうちぬれせんべいで3億円を売り上げていることには驚くばかりですが、やはり本来の活動領域で新たなビジネスモデルが構築できなければ、長期的に見て不安です。自治体の財政は厳しく、昨年、市立病院の診療を休止した銚子市の支援は今後も期待できないでしょう。しかし、ここまで立て直した地域資源としての価値、インフラの可能性はもっとあるはずです。観光、物産面での新たな連携パートナー、アイデアがそのカギを握るでしょう。新たな価値を創造できなければ、鉄道の存続は難しいといえます」
塗料のはげかかった車両、茶色くすすけた窓ガラス。こじんまりとした1両の電車がゴトンゴトンと揺れながら動き出す。のどかな田園を走っているが、実際は崖っぷちスレスレを走っているのだった。
(取材・文=安楽由紀子/「サイゾー」8月号より)
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